書評
『どうしてこんなところに』(双葉社)
純文学・エンタメの領域を超越
主人公の久保田輝之は、妻を殺してしまった。妻や娘に生活の苦労をかけないよう、久保田は所属していた劇団をやめて仕事に就いた。だが夫婦関係は冷え切っていた。妻にはヤクの密売をする執念深い愛人がいた。輝之は日本各地を転々とする。東京を離れ、新潟、青森、函館、札幌、稚内と北に流れ、石巻、仙台を経て、四国、近畿、九州、そして沖縄へと逃亡する。「逃亡」というよりも、延々と移動している感じだ。
自殺しようとした。だが果たせなかった。行く先々で希薄だが他人とのつながりもできる。2年と4カ月。輝之はなぜ移動するのか。はっきりとした理由はない。
それほど恵まれた人生ではない。だが悲惨な暮らしというわけでもない。輝之の内面は綴(つづ)られてはいるけれども、犯罪者の心理に迫るといった筆致でもない。
そう考えてくると、著者の桜井がやろうとしていることが見えてくる。つまり、人間の内面を掘り下げる「純文学」を目指しているのでもなければ、逃亡生活をスリリングに描く「エンタメ」を書きたいのでもない。それらのカヴァーしていない領域に踏み込んでいる。
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