書評
『ユーミンの罪』(講談社)
恋愛がレジャーだった時代
1972年のデビューから「DAWN PURPLE」の91年までの楽曲を追いながら、ユーミンが世間に与えた影響や時代の変遷を辿(たど)る。著者はユーミンの後輩にあたるミッションスクールの出身。お嬢様学校出身者という階層が辿るライフコースとユーミンの世界観が重なるのも見どころだ。ユーミンの歌に登場する恋愛の場面。「ノーサイド」は試合に負け、卒業を控えたラグビー選手の恋人がヒロイン。当時、高校生で「ラグビー部の男子の彼女になって試合を応援に行く」ことに憧れた著者は喝采の叫びを上げたという。社会階層高めの「ラグビー」というのが重要。野球じゃ成立しない世界観だ。そんな「レジャーとしての恋愛」時代が始まった80年代前半。
「ふりきるように駆けた階段 ひといきれのみ込む通勤電車♪」という歌詞の「メトロポリスの片隅で」のヒロインは、都会で働くシングルガール。
「30代以上・未婚・子なし」女性を論じた『負け犬の遠吠(とおぼ)え』の著者でもある酒井はこの歌に「負け犬の源流」を見いだす。
男女雇用機会均等法制定の85年。大学生だった著者は自分が「男性と同じようにバリバリ働く」姿を思い描いたという。
本書が描く72年から91年とは、高度成長期の終わりからバブル経済の崩壊までの時代。女性の企業社会への進出や、晩婚化といったこの国の女性の生き方の変化が刻まれている。
一方、本書が描かなかったのはバブル崩壊後の日本だ。レジャーとセットのキラキラした恋愛が現実味をなくしていった国の姿は、ユーミンの歌に象徴させることができなくなっていったのか。または、そこを描かなかったからこそ、本書は売れているのかもしれない。ユーミンも日本経済もギラギラしていた時代を知らない今の若者は、どう読むだろうか?
朝日新聞 2014年1月12日
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