書評
『絶叫師タコグルメと百人の「普通」の男』(河出書房新社)
トヨザキ的評価軸:
◎「金の斧(親を質に入れても買って読め)」
「銀の斧(図書館で借りられたら読めば―)」
「鉄の斧(ブックオフで100円で売っていても読むべからず)」
〈反権力のまま権力を握り、何も決めず、何も引き受けず、(中略)ただ利権を分ける〉知感野労どもとその頂点に君臨するタコグルメ、ロジックの曖昧さをごまかすために自信のない言葉には「 」をつける評論家たち、〈何の取り柄もないのに受け身のままで、(中略)痩せ型キレイ系の彼女と恋愛をしておいて、その後母性的美少女と結婚したい、というような、要はきつい性妄想だけを持っている「普通」の男〉たち、〈時には会社やクラブ、またお袋の中に要は外の見えぬ場所に閉じこもる〉悪しき意味でのおたく「おんたこ」たちを罵倒。あえて極論を提示することで、この小説は現時点からおそらくは未来へと続く日本人の病的心性の源に触れることに成功している。
つまり、戦っている。相変わらず、笙野頼子は戦っているのだ。八百木千本を創出したばかりの頃は、戦う対象は女を外面や年齢で差別する家父長制社会の理不尽だったのに、純文学論争を経て、近代や国家から切り捨てられてしまう人間への共感、宗教なき時代に〈小さい共同体の中に埋没してしまい、自分の自我と大きい世界を対決させる事の出来ない「祈りなき人々」〉への苛立ち、ロリコン性への嫌悪をジャンプボードに、戦火を拡大させているのである。が、焼畑じゃないけれど、『水晶内制度』(新潮社)、『金毘羅』(集英社)、本作、そして『だいにっほん、おんたこめいわく史』(講談社)というプロメテウスの火で燃やし尽くされた大地は肥沃を取り戻し、やがて笙野頼子によってインスパイアされた新しい作家を生み出すにちがいない。この健全な狂気と過剰な言葉と過激な笑いに満たされた小説を読むと、期待と希望で胸が高鳴るのだ。
【この書評が収録されている書籍】
◎「金の斧(親を質に入れても買って読め)」
「銀の斧(図書館で借りられたら読めば―)」
「鉄の斧(ブックオフで100円で売っていても読むべからず)」
戦い続ける作家によって大地は肥沃を取り戻すのだ
八百木千本、ピーンチ! 『説教師カニバットと百人の危ない美女』(河出書房新社)で初めて主役をはって以来、作家・笙野頼子のソウルメイト的分身として活躍。〈ブスである事をわが身に引き受けた存在として、ややマッチョの欠点をも含めてショーアップした潔く誇り高いブ貌架空人物〉が、そのまっとうさ過激さゆえに、論敵どもによって拉致監禁されてしまったのだ。不埒な振る舞いに及んだのは、ついにロリコンを商売化し、海外への輸出をはじめたパラレルワールドとしての日本国を牛耳っている〈知と感性の野党労働者会議(略して、ちかんやろう)〉。〈ブスを芸能化し芸術化してきた超越的な〉我らがブ貌の女傑は、彼奴らによってネット内美少女・美ガ原キレ子と合体させられ、彼女の「私」小説を書くための道具にされようとしているのだった――。〈反権力のまま権力を握り、何も決めず、何も引き受けず、(中略)ただ利権を分ける〉知感野労どもとその頂点に君臨するタコグルメ、ロジックの曖昧さをごまかすために自信のない言葉には「 」をつける評論家たち、〈何の取り柄もないのに受け身のままで、(中略)痩せ型キレイ系の彼女と恋愛をしておいて、その後母性的美少女と結婚したい、というような、要はきつい性妄想だけを持っている「普通」の男〉たち、〈時には会社やクラブ、またお袋の中に要は外の見えぬ場所に閉じこもる〉悪しき意味でのおたく「おんたこ」たちを罵倒。あえて極論を提示することで、この小説は現時点からおそらくは未来へと続く日本人の病的心性の源に触れることに成功している。
つまり、戦っている。相変わらず、笙野頼子は戦っているのだ。八百木千本を創出したばかりの頃は、戦う対象は女を外面や年齢で差別する家父長制社会の理不尽だったのに、純文学論争を経て、近代や国家から切り捨てられてしまう人間への共感、宗教なき時代に〈小さい共同体の中に埋没してしまい、自分の自我と大きい世界を対決させる事の出来ない「祈りなき人々」〉への苛立ち、ロリコン性への嫌悪をジャンプボードに、戦火を拡大させているのである。が、焼畑じゃないけれど、『水晶内制度』(新潮社)、『金毘羅』(集英社)、本作、そして『だいにっほん、おんたこめいわく史』(講談社)というプロメテウスの火で燃やし尽くされた大地は肥沃を取り戻し、やがて笙野頼子によってインスパイアされた新しい作家を生み出すにちがいない。この健全な狂気と過剰な言葉と過激な笑いに満たされた小説を読むと、期待と希望で胸が高鳴るのだ。
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