書評
『シャングリ・ラ』(角川グループパブリッシング)
トヨザキ的評価軸:
◎「金の斧(親を質に入れても買って読め)」
「銀の斧(図書館で借りられたら読めば―)」
「鉄の斧(ブックオフで100円で売っていても読むべからず)」
その名も『シャングリ・ラ』。
地球温暖化の元凶、二酸化炭素の放出が問題となり、その排出量によって課税率が決定する新しい経済システムが誕生した近未来。物語の舞台は、熱帯と化した都心の気温を下げるべく、世界最大の森林都市へと生まれ変わった東京です。その中心にそびえ立つのが、超高層都市アトラス。が、そこに移住できるのは限られた者だけ。地上は難民で溢れ、反政府ゲリラはドゥオモと呼ばれる砦を拠点に、アトラスに戦いを挑み続けています。その総統が戦闘能力が高いばかりではなく人望も厚く、砦の仲間から愛される十八歳の國子。一方アトラスでは、十歳の天才少女・香凛が世界経済を左右する炭素指数を自在に操り、巨万の富を生み出すプログラム「メデューサ」を開発し、マネーゲームを挑もうとしていて――。
國子の育ての親にして無敵のニューハーフ・モモコ。大勢の女官にかしずかれる謎の美少女・美邦。陸軍に属する気のいい青年少佐・草薙。大勢の個性的なキャラクターが登場し、その言動の面白さに引っ張られ、ページを繰る指が止まりません。
登場人物の成長を描くビルドゥングスロマンであり、魅力的なガジェット満載の気宇壮大なSFであり、地球と人類の共存を考えるエコロジー小説であり、知的な経済小説であり、アクション満載の冒険活劇小説であり、たくさんの謎を解決していくミステリーであり、東京のイメージを一新させる都市小説でありと、さまざまなジャンルの魅力を併せ持つウルトラ娯楽大作。しかも読んでいる間中、笑ったり泣いたり感情を揺さぶられっぱなしなんですの。
これまでの池上作品に瑕疵があったとすれば、特にキャラクターが暴走して物語の本筋から外れすぎるという、作者自身が奔放な想像力を持て余し気味のように感じられた点でありましょう。でも、今回はほどよく制御。元気や個性を失わないまま話の本筋からは外れず、疾走感を落とさずに伏線を回収していく登場人物の造型ぶりに、池上永一の物語作家としての成長の跡が見える。とにかく、あらゆる点において素晴らしい小説なのです! 各誌の年間ベストテン企画に投票権を持つ皆さん、絶対読むべし。これを読まないで投票したら、そんなお前に不信任案。オデは決して許さんよ。
【この書評が収録されている書籍】
◎「金の斧(親を質に入れても買って読め)」
「銀の斧(図書館で借りられたら読めば―)」
「鉄の斧(ブックオフで100円で売っていても読むべからず)」
池上永一をメジャー化してくれるウルトラ娯楽大作
オデは悔しかったんですの、池上永一がメジャーな作家にならないことが。超ド級の神話的想像力を駆使した爆笑SF『レキオス』が文庫化されない理不尽が(現・角川文庫)。そんなオデ、お待たせ! 池上くんをメジャー化してくれる傑作が誕生したよ!!その名も『シャングリ・ラ』。
地球温暖化の元凶、二酸化炭素の放出が問題となり、その排出量によって課税率が決定する新しい経済システムが誕生した近未来。物語の舞台は、熱帯と化した都心の気温を下げるべく、世界最大の森林都市へと生まれ変わった東京です。その中心にそびえ立つのが、超高層都市アトラス。が、そこに移住できるのは限られた者だけ。地上は難民で溢れ、反政府ゲリラはドゥオモと呼ばれる砦を拠点に、アトラスに戦いを挑み続けています。その総統が戦闘能力が高いばかりではなく人望も厚く、砦の仲間から愛される十八歳の國子。一方アトラスでは、十歳の天才少女・香凛が世界経済を左右する炭素指数を自在に操り、巨万の富を生み出すプログラム「メデューサ」を開発し、マネーゲームを挑もうとしていて――。
國子の育ての親にして無敵のニューハーフ・モモコ。大勢の女官にかしずかれる謎の美少女・美邦。陸軍に属する気のいい青年少佐・草薙。大勢の個性的なキャラクターが登場し、その言動の面白さに引っ張られ、ページを繰る指が止まりません。
登場人物の成長を描くビルドゥングスロマンであり、魅力的なガジェット満載の気宇壮大なSFであり、地球と人類の共存を考えるエコロジー小説であり、知的な経済小説であり、アクション満載の冒険活劇小説であり、たくさんの謎を解決していくミステリーであり、東京のイメージを一新させる都市小説でありと、さまざまなジャンルの魅力を併せ持つウルトラ娯楽大作。しかも読んでいる間中、笑ったり泣いたり感情を揺さぶられっぱなしなんですの。
これまでの池上作品に瑕疵があったとすれば、特にキャラクターが暴走して物語の本筋から外れすぎるという、作者自身が奔放な想像力を持て余し気味のように感じられた点でありましょう。でも、今回はほどよく制御。元気や個性を失わないまま話の本筋からは外れず、疾走感を落とさずに伏線を回収していく登場人物の造型ぶりに、池上永一の物語作家としての成長の跡が見える。とにかく、あらゆる点において素晴らしい小説なのです! 各誌の年間ベストテン企画に投票権を持つ皆さん、絶対読むべし。これを読まないで投票したら、そんなお前に不信任案。オデは決して許さんよ。
【この書評が収録されている書籍】
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