1970年、大分県生まれ。小説家、仏語文学研究者。「水に埋もれる墓」で朝日新人文学賞、『にぎやかな湾に背負われた船』で三島由紀夫賞、『九年前の祈り』で芥川龍之介賞受賞。訳書にV・S・ナイポール『ミゲル・ストリート』(小沢自然との共訳)、ポール・ニザン「アデン、アラビア」ほか。〈プロフィール写真 (c)講談社…もっと読む
- 『題未定―安部公房初期短編集』(新潮社)小野 正嗣
巨大な〈名〉の背後の〈!?〉な世界文学部で教えていて恐ろしいことがある。安部公房の名前をあげても、〈?〉顔の学生ばかり。いや、この反応に〈…
書評 - 『フリーダム』(早川書房)小野 正嗣
壊れゆく家族で〈不自由さ〉描く小説は何のために読まれるのか? 娯楽? 暇つぶし? 自分が主役の自由な世界をせっせと拡張すべく、スマホの画面の…
書評 - 『冬の旅』(集英社)小野 正嗣
転落する人生辿り問いかける小説なんて所詮(しょせん)作り話の他人事である。なのにそれが、漠然と誰もが感じている時代の空気を、どんな言葉より…
書評 - 『マリッジ・プロット』(早川書房)小野 正嗣
不安定で傷つきやすい若者たち一見スノッブな小説だ。主人公たちはアメリカ東海岸の名門ブラウン大学の学生である。主人公の文学少女マデリン、大柄…
書評 - 『忘れられない日本人移民 ブラジルへ渡った記録映像作家の旅』(港の人)小野 正嗣
〈家〉なき存在の現実を映す著者の岡村淳は1987年にブラジルに移住して以来、小型ビデオカメラを片手にたった一人でドキュメンタリーを撮り続けてい…
書評 - 『白い人びと―― ほか短篇とエッセー』(みすず書房)小野 正嗣
死は虚無ではなく目覚めなのだ子供に大人には見えないものが見えるのは、生まれる前の、だからまだ生が死と未分化な状態の記憶が残っているからなの…
書評 - 『世界を回せ 上』(河出書房新社)小野 正嗣
綱渡りへの視線、境遇越えつなぐ1974年8月7日の早朝、マンハッタンの今はなき世界貿易センターのツインタワーの間で綱渡りした男がいた。地上400メ…
書評 - 『ミレナへの手紙』(白水社)小野 正嗣
返事が待てない、障害だらけの恋カフカの魅力は小説に尽きない。『ボヴァリー夫人』を書いたフローベールの『書簡』と並び、カフカの『日記』と『書…
書評 - 『コンビニ人間』(文藝春秋)小野 正嗣
昨年10月にイギリスに行ったときのことだ。ロンドンの書店で堆(うずたか)く積み上げられていたのは、オーシャン・ヴオン(Ocean Vuong)という1988…
書評 - 『もうひとつの街』(河出書房新社)小野 正嗣
無意識の王国へさまよいだすしばらく前からひとつの噂が囁かれているようだ。1冊の不思議な本がいま書店の棚で息を潜めている。収められた言葉が読…
書評 - 『特派員ルポ サンダルで歩いたアフリカ大陸』(岩波書店)小野 正嗣
ひとつながりの希望と絶望2008年3月、毎日新聞記者の著者は、南アフリカのヨハネスブルクに赴任する。以後4年にわたって、この広大な大陸の10近くの…
書評 - 『さようなら、オレンジ』(筑摩書房)小野 正嗣
言葉の壁と格闘する女性たち開くのをためらう本がある。こんな小説をずっと読みたかったのだ!と心を鷲掴(わしづか)みされる予感が読む前からある…
書評 - 『レヴィ=ストロース伝』(講談社)小野 正嗣
世界を席巻した「知の巨人」の足跡どんな分野であれ、ある時代に誰もが仰ぎ見る支配的な巨人がいるものだ。その存在のおかげで分野内の知見や経験は…
書評 - 『沈むフランシス』(新潮社)小野 正嗣
美しい文体から届く不穏な雑音タイトルが謎めいている。沈むフランシス?だが冒頭、視界に飛びこんでくるのは、水の流れに運ばれていく人間の体だ。…
書評 - 『国境 完全版』(河出書房新社)小野 正嗣
いかなる線からも自由な視線で読めば、作品ひいては世界への向き合い方に靴に砂でも入ったみたいな違和が生じ、各自に足下を見直させる。卓越した文…
書評 - 『穴』(新潮社)小野 正嗣
獣を追いかけて落ちた先には文学を読むとは、作家が想像力で掘った〈穴〉にはまることなのだろう。『不思議の国のアリス』が落ちた深い穴、カフカの…
書評 - 『ヴィクラム・ラルの狭間の世界』(岩波書店)小野 正嗣
いびつな社会生きる「よそ者」最初は戸惑うかもしれない。主人公はヴィクラム・ラルという、国家的な汚職事件に関わって逃亡中のインド系の男。そし…
書評 - 『英子の森』(河出書房新社)小野 正嗣
〈わたし〉は空虚な器なのか〈大人になる〉とは、自分の前に広がる無数の可能性のほとんどを諦めることだ。だが、商品であれサービスであれ情報であ…
書評 - 『我々の恋愛』(講談社)小野 正嗣
いとうせいこうの世界性アメリカ現代文学の翻訳者として活躍のめざましい藤井光が最近(ALL REVIEWS事務局注:本書評執筆時期は2016年4月)刊行した…
書評 - 『ホーム』(早川書房)小野 正嗣
人生取り戻す「故郷への帰還」トロイア戦争から帰還する英雄の遍歴を歌った古代ギリシアの『オデュッセイア』のように、文学は〈故郷への帰還〉を好…
書評