それからもう一つ。今西さんは『種の起原』を原書で、しかも初版について読む。そこで、適者生存と普通いわれている言葉が、ザ・サーバイバル・オブ・ザ・フィッテスト(the Survival of the Tittest)である、だからこれは最適者生存と訳すべきである、といっている。それから生存競争というのは原著ではストラグル・フォー・エグジスタンス(Strugle for Existence)である。これは日本訳では生存競争とさんざんいわれているけど、ほかに生存抗争とか、生存に対する努力とかいってもいい、といっている。こういう言葉に対するこだわり方、厳密さも、われわれが今日すぐに学んで役に立つ態度だと思うんです。そういう思考技術の師匠としての立派さが、つまり今西さんが単なる生物学者でなくて思想家だということなんでしょうね。