書評

『菌類が世界を救う ; キノコ・カビ・酵母たちの驚異の能力』(河出書房新社)

  • 2024/03/09
菌類が世界を救う ; キノコ・カビ・酵母たちの驚異の能力 / マーリン・シェルドレイク
菌類が世界を救う ; キノコ・カビ・酵母たちの驚異の能力
  • 著者:マーリン・シェルドレイク
  • 翻訳:鍛原 多惠子
  • 出版社:河出書房新社
  • 装丁:単行本(372ページ)
  • 発売日:2022-01-22
  • ISBN-10:430925439X
  • ISBN-13:978-4309254395
内容紹介:
建築やコンピュータをつくる、猛毒や放射線を食べる、地球全体の気候を変える、宇宙空間でも生き延びる……。「生命」の常識が覆される!20か国以上で刊行決定の世界的ベストセラー!「あ… もっと読む
建築やコンピュータをつくる、
猛毒や放射線を食べる、
地球全体の気候を変える、
宇宙空間でも生き延びる……。

「生命」の常識が覆される!
20か国以上で刊行決定の世界的ベストセラー!


「あなたがこの文を読むあいだにも、菌類は一〇億年以上そうしてきたように生命のありようを変えている。岩石を食べ、土壌をつくり、汚染物質を消化し、植物に養分を与えたり枯らしたりし、宇宙空間で生き、幻覚を起こし、食物になり、薬効成分を産出し、動物の行動を操り、地球の大気組成を変える。菌類は私たちが生きている地球、そして私たちの思考、感覚、行動を理解するためのカギとなる」(本文より)


●2021年 王立協会科学図書賞 受賞
●米国『TIME』誌 2020年の必読書100選

[原題]Entangled Life: How Fungi Make Our Worlds, Change Our Minds & Shape Our Futures(2020年刊)


【目次】

プロローグ

序章 菌類であることはどんな心地なのか
地球は菌類によってつくられた
人間社会に欠かせない菌類たち
菌類と植物のネットワーク
粘菌や細菌が教えてくれること
菌類が生きる世界を想像する

第1章 魅惑
トリュフは語る
化学情報を使った対話
ヒトや動物を引きつける香り
トリュフの香りの秘密
香りの音楽を奏でる
トリュフのパートナー関係
獲物を捕食する菌類
擬人化について
菌類は感知し、解釈する

第2章 生きた迷路
迷路の中の菌糸
菌糸体の問題解決能力
なぜ協調行動ができるのか
自分の形を変える能力
爆発的な成長力
菌糸体は身体を獲得した多声音楽である
光も表面も重力も鋭く感知
遠くの情報をどうやって「知る」のか
菌類コンピュータの夢
生命史上初のネットワーク
「新たな迷路への扉」

第3章 見知らぬ者どうしの親密さ
地衣類と宇宙生物学
「共生」の発見
地表を覆い、変えていく
生命は遺伝的に閉じた系ではない
地衣類のなかで生命たちは巡りあう
群を抜いて奇妙な極限環境生物
共生の条件
「私たちはみな地衣類」
地衣類だらけになって

第4章 菌糸体の心
人の経験を変える化合物
行動を支配するゾンビ菌
変性意識状態をもたらす菌類
宿主支配のさまざまな手法
「アリの服を着た菌類」
神秘的な経験の科学
脳と心の変化
菌類はヒトの心を身にまとうのか
二〇世紀のセンセーション
胞子拡散のために熱心に働かされるヒト
精神と身体の限界を超える

第5章 根ができる前
植物の陸上進出は菌類のおかげ
根と菌糸の親密な交わり
根は菌類のあとに生まれた
寄生ではなく相利共生
菌根菌が地球の気候を変える
菌根菌が植物の味わいを変える
植物と菌類の「為替レート」
菌根研究では何が問題になるのか
生命は「巻き込む」
農業と菌根共生
植物への認識を改める

第6章 ウッド・ワイド・ウェブ
共有菌根ネットワークの世界
植物間を直接結ぶ菌類経路
ネットワーク・サイエンスの時代
菌従属栄養植物の生活
植物はなぜ菌類に利益を与えるのか
菌類中心の視点へ
共有菌根ネットワークは必ずしも利益をもたらすわけではない
多くの問いを投げかける実験
誰が利益を得ているか
ネットワークのスケールフリー性
あるがままに見ることはできるか

第7章 ラディカル菌類学
厄災を生き延びる
菌類が食べなかったものの歴史
草の根からの菌類学
ゴミを宝に変える
環境を除染する
実験室がなくても多くを成し遂げられる
菌類を育てるシロアリ
新素材として利用する
さらなるアイデアへ
新しくかつ古い解決法

第8章 菌類を理解する
酵母と人類
人間の文化の目に見えぬ参加者
「菌類好き」の文化、「菌類嫌い」の文化
共生関係の議論の政治色
菌類学者は菌類らしく振る舞う
熟れた果実からバイオ燃料まで
「ニュートンのリンゴ」の物語

エピローグ この分解者

社会を映す、網の目ネットワーク

長年、森に関心を持ってきたが、本書を読んで、森のイメージが変わった。「木を見て、森を見ず」という言葉があるが、自分は確かに木を見て、根をよく見ていなかったなあ、と思う。たとえば著者は熱帯雨林の木の根を掘って、徹底的に追いかける。根の先端は菌糸と絡み合っている。

WWW(ワールド・ワイド・ウェブ)という言葉がある。インターネットが世界中に張り巡らされたネットワークになるという意味だが、最初のWをwood(森)に変えてもいい。そうすればウッド・ワイド・ウェブということになる。森の地下全体に菌糸のネットワークが広がっている状況である。

これをどう考えたらいいのか。まず問題は、この網の目が見えないということである。とりあえず頭の中でこの網の目を想像するしかない。そのところどころからキノコが生える。キノコは子実体(しじったい)と呼ばれ、胞子を作って菌の領域を広げる。

私が学校で生物学を習った頃は、生物の世界は単細胞の細菌と、動物・植物の二つに大分けされていた。現在では動物、植物、菌類という三区分になっている。菌類の中には、ヒトの生活に関係の深い酵母のような単細胞生物も含まれている。

菌糸の網の目は、根の先で木と物質のやり取りをする。それは情報のやり取りでもある。そう思えば、まるで脳みたいだが、もちろん脳ではない。

生物を扱う学者は、自分が扱っている対象に似てくるという。本書は網の目のように各部が繋(つな)がりあって構成されており、特定の筋書きに沿って、すっきりした因果関係を説明するようなものではない。まさに菌類の博物誌であり、最近発見された事実を網羅する総説である。

副題には「キノコ・カビ・酵母たちの驚異の能力」とあるが、それはWWWの一面に過ぎない。我々は自分の都合で世界を見てしまうが、菌類は「自然はそういうものではないよ」と、教えてくれる。

キノコ好きの人は多い。本書でも菌類研究にアマチュアがどれだけ寄与してきたか、現在寄与しているかが記されている。おいしいキノコ、毒のあるキノコというのが、一般の人の菌類に関する認識であろう。そのキノコを作るのは、背景に存在している菌糸の網の目であり、その網の目自体を「見る」ことはほとんどできない。我々が一口に「緑」と呼ぶものは、WWWに支えられた可視的な部分のみなのである。

著者は「私は菌類を研究しているときほど菌類らしく振る舞うことはない」と記す。「互いに便宜を図ったりデータを融通したりして、すぐに学術的な相利共生関係を結ぶ」

生物学は、物理や化学のような無生物で成功した研究方法を取り入れて発展してきた。今ではネットワークを扱うにはどうすればいいのか、という大きな問題に直面している。

本書の最終章は「菌類を理解する」と題される。「もし私たちが動植物ではなく菌類を『典型的な』生命体と考えるなら、私たちの社会と組織はどのように変わるだろうか」。つまりはそういうことなのである。菌類は果たして特殊な例外なのか。
菌類が世界を救う ; キノコ・カビ・酵母たちの驚異の能力 / マーリン・シェルドレイク
菌類が世界を救う ; キノコ・カビ・酵母たちの驚異の能力
  • 著者:マーリン・シェルドレイク
  • 翻訳:鍛原 多惠子
  • 出版社:河出書房新社
  • 装丁:単行本(372ページ)
  • 発売日:2022-01-22
  • ISBN-10:430925439X
  • ISBN-13:978-4309254395
内容紹介:
建築やコンピュータをつくる、猛毒や放射線を食べる、地球全体の気候を変える、宇宙空間でも生き延びる……。「生命」の常識が覆される!20か国以上で刊行決定の世界的ベストセラー!「あ… もっと読む
建築やコンピュータをつくる、
猛毒や放射線を食べる、
地球全体の気候を変える、
宇宙空間でも生き延びる……。

「生命」の常識が覆される!
20か国以上で刊行決定の世界的ベストセラー!


「あなたがこの文を読むあいだにも、菌類は一〇億年以上そうしてきたように生命のありようを変えている。岩石を食べ、土壌をつくり、汚染物質を消化し、植物に養分を与えたり枯らしたりし、宇宙空間で生き、幻覚を起こし、食物になり、薬効成分を産出し、動物の行動を操り、地球の大気組成を変える。菌類は私たちが生きている地球、そして私たちの思考、感覚、行動を理解するためのカギとなる」(本文より)


●2021年 王立協会科学図書賞 受賞
●米国『TIME』誌 2020年の必読書100選

[原題]Entangled Life: How Fungi Make Our Worlds, Change Our Minds & Shape Our Futures(2020年刊)


【目次】

プロローグ

序章 菌類であることはどんな心地なのか
地球は菌類によってつくられた
人間社会に欠かせない菌類たち
菌類と植物のネットワーク
粘菌や細菌が教えてくれること
菌類が生きる世界を想像する

第1章 魅惑
トリュフは語る
化学情報を使った対話
ヒトや動物を引きつける香り
トリュフの香りの秘密
香りの音楽を奏でる
トリュフのパートナー関係
獲物を捕食する菌類
擬人化について
菌類は感知し、解釈する

第2章 生きた迷路
迷路の中の菌糸
菌糸体の問題解決能力
なぜ協調行動ができるのか
自分の形を変える能力
爆発的な成長力
菌糸体は身体を獲得した多声音楽である
光も表面も重力も鋭く感知
遠くの情報をどうやって「知る」のか
菌類コンピュータの夢
生命史上初のネットワーク
「新たな迷路への扉」

第3章 見知らぬ者どうしの親密さ
地衣類と宇宙生物学
「共生」の発見
地表を覆い、変えていく
生命は遺伝的に閉じた系ではない
地衣類のなかで生命たちは巡りあう
群を抜いて奇妙な極限環境生物
共生の条件
「私たちはみな地衣類」
地衣類だらけになって

第4章 菌糸体の心
人の経験を変える化合物
行動を支配するゾンビ菌
変性意識状態をもたらす菌類
宿主支配のさまざまな手法
「アリの服を着た菌類」
神秘的な経験の科学
脳と心の変化
菌類はヒトの心を身にまとうのか
二〇世紀のセンセーション
胞子拡散のために熱心に働かされるヒト
精神と身体の限界を超える

第5章 根ができる前
植物の陸上進出は菌類のおかげ
根と菌糸の親密な交わり
根は菌類のあとに生まれた
寄生ではなく相利共生
菌根菌が地球の気候を変える
菌根菌が植物の味わいを変える
植物と菌類の「為替レート」
菌根研究では何が問題になるのか
生命は「巻き込む」
農業と菌根共生
植物への認識を改める

第6章 ウッド・ワイド・ウェブ
共有菌根ネットワークの世界
植物間を直接結ぶ菌類経路
ネットワーク・サイエンスの時代
菌従属栄養植物の生活
植物はなぜ菌類に利益を与えるのか
菌類中心の視点へ
共有菌根ネットワークは必ずしも利益をもたらすわけではない
多くの問いを投げかける実験
誰が利益を得ているか
ネットワークのスケールフリー性
あるがままに見ることはできるか

第7章 ラディカル菌類学
厄災を生き延びる
菌類が食べなかったものの歴史
草の根からの菌類学
ゴミを宝に変える
環境を除染する
実験室がなくても多くを成し遂げられる
菌類を育てるシロアリ
新素材として利用する
さらなるアイデアへ
新しくかつ古い解決法

第8章 菌類を理解する
酵母と人類
人間の文化の目に見えぬ参加者
「菌類好き」の文化、「菌類嫌い」の文化
共生関係の議論の政治色
菌類学者は菌類らしく振る舞う
熟れた果実からバイオ燃料まで
「ニュートンのリンゴ」の物語

エピローグ この分解者

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初出メディア

毎日新聞

毎日新聞 2022年2月12日

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