書評
『スパイにされた日本人―時の壁をこえて紡ぎなおされた父と娘の絆』(悠書館)
愛憎と曲折、娘の視点でつづる
1920年代、ロンドンに留学中のタキこと、江口孝之は英国女性と結ばれ、娘エドナらの子供に恵まれる。本書は、エドナによる父親タキの回想、という形式をとる。一家にとって、タキはよき父親ではなく、浮気で身勝手な男、という存在でしかない。真珠湾開戦の前年7月、タキは政治的な理由でスパイの嫌疑をかけられ、逮捕されて収容所に送られる。
その結果、エドナたちは周囲から白眼視され、さらに日英間に戦争が始まるや、敵国人の一家とみなされて、ますます苦境に陥る。そうした経緯からエドナは父親に愛憎半ばする、複雑な感情を抱く。しかし、年とともに思慕の念を募らせ、戦後父親が日本へ送還されると、手紙を出して和解の道を探り始める。
当然のことながら、本書はエドナの視点で構成されているため、タキの心情が十分に描き切れていない。さりとはいえ、氷が解けるまでの長い道のりは、つらい中にも心を打たれるものがある。
朝日新聞 2012年9月16日
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