書評

『機械状無意識―スキゾ分析』(法政大学出版局)

  • 2017/10/22
機械状無意識―スキゾ分析 / フェリックス・ガタリ
機械状無意識―スキゾ分析
  • 著者:フェリックス・ガタリ
  • 翻訳:高岡 幸一
  • 出版社:法政大学出版局
  • 装丁:単行本(418ページ)
  • 発売日:1990-10-01
  • ISBN-10:4588003089
  • ISBN-13:978-4588003080
内容紹介:
プルースト論に〈顔面性特徴〉〈リトルネロ〉という絵画的・音楽的概念を導入し,独自の〈スキゾ分析的語用論〉を展開しつつプルースト的エクリチュールを解読する。
ポスト・モダン哲学の旗手ガタリが、大作家マルセル・プルーストの『失われた時を求めて』を批評した問題の書。原著は一九七九年に出版されている。その内容は、さすがガタリだけあって一筋縄ではいかない。

全体は二部からなる。第Ⅰ部「機械状無意識」は、分析の方法論をのべる部分。キー・ワードはアジャンスマン(鎖列)とリトネルロ(テンポ取り作用)だ。この原理が、作品のいろいろな要素を空間的・時間的に配列して全体を組み立てているーどうやらそういうことが書いてあるらしいのだが、ほんとうにそうかどうか、私は自信がない。

第Ⅱ部はいよいよ作品分析。〈「失われた時を求めて」は驚くべき一大リゾーム地図である。……それ自体で一つのスキゾ分析的モノグラフである〉(二五五頁)。こう宣言する著者は、思い切りよく、作品をズタズタに切り刻んでしまう。なるほどポスト・モダン批評である。

どう控え目に言っても、この本は難解だ。たとえば〈諸表現素材へのある種の詩的受動性……が創造への道を開く。この受動性は、支配的ファルス至上主義的価値観のコンテクストにおいては、プルーストによって女性らしさとして体験される〉(三四四頁)とある。これなど「プルーストは何を見ても、創作意欲を刺戟された。ただ、自分がホモなので気がとがめ、女性らしさに魅かれがちだったけれど」という意味なのだろうか。

ガタリは「顔面性成分の軌跡」と称して、ある作中人物の顔が、さまざまな別な人物の顔とイメージがつながっている、という多角的な網の目を追いかけたりしている。なかなか面白い着眼だ。でもこういう分析が、プルーストの作品の価値や味わいとどういう関係があるのか、よくわからなかった。

とにかく本書は、よく出回っているポスト・モダン批評の種本らしい。「文学部唯野教授」の第9講も、本書の理解の助けになる。

【この書評が収録されている書籍】
書評のおしごと―Book Reviews 1983‐2003 / 橋爪 大三郎
書評のおしごと―Book Reviews 1983‐2003
  • 著者:橋爪 大三郎
  • 出版社:海鳥社
  • 装丁:単行本(382ページ)
  • ISBN-10:4874155421
  • ISBN-13:978-4874155424
内容紹介:
1980年代、現代思想ブームの渦中に登場以来、国内外の動向・思潮を客観的に見据えた著作と発言で論壇をリードしてきた橋爪大三郎が、20年間にわたり執筆した書評を初めて集成。明快な思考で知られる著者による、書評の最良の教科書。

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

機械状無意識―スキゾ分析 / フェリックス・ガタリ
機械状無意識―スキゾ分析
  • 著者:フェリックス・ガタリ
  • 翻訳:高岡 幸一
  • 出版社:法政大学出版局
  • 装丁:単行本(418ページ)
  • 発売日:1990-10-01
  • ISBN-10:4588003089
  • ISBN-13:978-4588003080
内容紹介:
プルースト論に〈顔面性特徴〉〈リトルネロ〉という絵画的・音楽的概念を導入し,独自の〈スキゾ分析的語用論〉を展開しつつプルースト的エクリチュールを解読する。

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初出メディア

エニイ

エニイ 1991年4月

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