言葉の沃野へ―書評集成〈下〉海外篇
- 著者:吉本 隆明
- 出版社:中央公論社
- 装丁:文庫(273ページ)
- ISBN-10:4122025990
- ISBN-13:978-4122025998
その他の書店
ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、
書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。
ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。
例えばまたもや精神分析を取り上げてみよう――その理論におけるのみならず、計算と治療との実践においてもまた、精神分析は無意識を樹木構造に、段階序列的グラフに、要約用説的記憶に、中心的諸器官、ファロス、樹木-ファロスに引渡す。精神分析はこの点に関して方法を変えることはできない――無意識というものについての専制的な考え方にもとついて、それはわが専制的権力を打ち立てているのだ、つまり精神分析医の被精神分析患者に対する、そしてもろもろの精神分析協会の精神分析医に対する権力を。精神分析の行動に残された余白はこうして非常に限られている。精神分析にもその対象にも、つねに一人の将軍、一人の首長がいる(フロイト将軍)。これとは反対に、無意識を非中心化システムとして、ということは完結した自動装置群(リゾーム)の機械状の網目として扱うことによって、精神分裂分析(スキゾアナリース)は無意識のまったく別な一状態に到達する。同じ指摘の数々が言語学についても妥当するのであり、ロザンティエールとプティトーは正当にも、「語の一群落(ソシエテ)の非中心化組織」の可能性を考察している。言表にとっても欲望にとっても同様、問題は決して無意識を縮小=還元することではなくて、一個の樹木にしたがってそれを解釈し意味せしめることでもない。問題、それは無意識を産出すること、そして無意識と共に、新たな言表、新たな欲望の数々を産出することなのだ――リゾームはこのような無意識の産出そのものなのである。