書評
『いとの森の家』(ポプラ社)
伝説に出会い成長を遂げる少女
福岡市内の団地に住んでいた小学4年生の主人公が、父の決断で郊外の糸島半島の丘の上に建てられた一戸建てに引っ越してくるところから物語は始まる。そこは、都会の福岡とは時空の異なる世界への入り口であった。主人公の住む集落には森があり、そこにはおハルさんと呼ばれる謎のおばあさんが住んでいる。森の奥には、氏神でもある神社がある。引っ越してすぐ、主人公が姉とともに神社を訪れると、社の中にあった女性の写真の目が光る。再び訪れたときには、不思議な木の幹や井戸を見つけ、それらが「よろい着て戦争に行った」神功(じんぐう)皇后に由来していることを知らされる。
著者は実際に小学生時代、糸島半島に一年ほど住んでいたという。このときの体験が本書のもとになっている。多感な少女が半島の伝説に出会い、まるで神社の巫女(みこ)のようなおばあさんとの交流を深めるにつれ精神的な成長を遂げてゆく物語に、心の底がじんわり温まるのを感じる。
朝日新聞 2014年12月14日
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