書評

『くそじじいとくそばばあの日本史』(ポプラ社)

  • 2024/05/10
くそじじいとくそばばあの日本史 / 大塚 ひかり
くそじじいとくそばばあの日本史
  • 著者:大塚 ひかり
  • 出版社:ポプラ社
  • 装丁:新書(232ページ)
  • 発売日:2020-10-07
  • ISBN-10:4591167631
  • ISBN-13:978-4591167632
内容紹介:
貪欲に、したたかに、たくましく生きた老人たち。古典から読み解く、パワフルな生き方の秘訣とは――?『女系図でみる驚きの日本史』著者が綴る、知られざる老人たちの歴史。【目次】はじめ… もっと読む
貪欲に、したたかに、たくましく生きた老人たち。
古典から読み解く、パワフルな生き方の秘訣とは――?
『女系図でみる驚きの日本史』著者が綴る、知られざる老人たちの歴史。

【目次】
はじめに くそ爺婆はかっこいい!

1 正史に残る最高齢者は「くそじじい」だった
…… 老人が社会のお荷物だった時代に580歳まで生き延びた超VIP

2 「ルポライターばばあ」が歴史を作る
……万葉の語り部婆と戦国の記録婆

3 爺婆は最高の「歴史の証人」だ
……お上の歴史は間違っちょる! と歴史書を編纂したじじいパワー

4 凄まじきは老人の権勢欲
……人はなぜ「晩節を汚す」のか? 成り上がりの豊臣秀吉から大貴族、僧侶まで

5 八十一で政界デビュー!! 百歳過ぎても政界に君臨
……前近代にも実在した超老人

6 一休さんはエロじじいだった
……若さを貪る爺婆、婚活詐欺ばばあ、押しかけ婚熟女も

7 平安・鎌倉時代のアンチエイジングばばあ
……実在した驚異の美魔女・美婆

8 戦国時代に「老人科」を作った老医師がいた
……ご長寿医師たちが教える長生きの秘訣

9 昔もいた「迷惑じじい」
……現代に通じるキレる老人たちの実態と子の苦労

10 西鶴の見たくそばばあたち
……男尊女卑の時代に明晰な頭脳や財力で「自分」を貫く

11 昔話のおじいさんとおばあさんは意外と「いい人」が少ない
……一寸法師を厄介者扱い、竹取の翁のセクハラ発言など

12 「鬼婆」の正体
……なぜ「鬼爺」ではなく「鬼婆」なのか

13 前近代の8050問題? 『浦島太郎』の真実
……長生きしてもいいことばかりではない

14 昔の人は短命はウソ! ヤバい老人クリエーター
踏まれても笑われても自分を信じた天才 曾禰好忠
九十過ぎて現役歌人 道因法師
後白河院との若き日のスキャンダルを暴露 待宵小侍従
特殊スキルが老後を助けた乙前
七十二歳で流罪になっても創作に励んだ世阿弥
自分の葬儀のシナリオを用意した四世鶴屋南北
百十歳まで描き続けるつもりだった葛飾北斎
老妻に手こずりながら盲目になっても書き続けた曲亭馬琴
五十二歳にして初婚、三度結婚した遅咲きじじい 小林一茶
また間違えて買ってしまった。『くそじじいとくそばばあのための日本史』だと早とちり。これはオレのために書かれた本だと思った。ところがよく見ると『くそじじいとくそばばあの日本史』(大塚ひかり著・ポプラ新書・946円)。日本史に登場するパワフルな老人たちのエピソードを紹介するエッセイである。でも、読んでよかった。

「くそじじいとくそばばあ」(以下「くじば」と略す)はほめ言葉。「くそ」は強調語だ。「グレート」みたいな感じか。そういえば大学で教えていた数年前、女子学生が「それって、くそかっこいいじゃないですか」と言ったのに驚いたのを思い出した。

いろんな「くじば」が出てくる。一条天皇に入内(じゅだい)して後一条・後朱雀両天皇を産んで国母となり、87歳で死ぬまで現役の政治家として君臨した藤原彰子(ふじわらのしょうし)(988~1074年)とか、81歳で政界デビューして108歳で死ぬまで幕府に絶大な影響力を及ぼした天海和尚(1536~1643年)とか。バイデンさんもびっくり! 頓知で人気の一休宗純(1394~1481年)は、77歳のとき約50歳も若い女性との愛欲に溺れ、そのさまを露骨なまでに書き記した、なんて話も。

興味深いのは、「くじば」が歴史の語り部としての役割を果たしてきたという指摘だ。平安後期の『大鏡』は古老の語りという様式を採用し、のちの『今鏡』『水鏡』『増鏡』も踏襲。戦国時代の柴田勝家は自分の最期を老女に目撃させ、後世に伝えさせた。

もっとも、権力欲を暴走させると悪い「くじば」になるから要注意だ。その代表が豊臣秀吉(1537~1598年)。晩年は妄想の果てに朝鮮を侵略し、大変な迷惑をかけた。

これから社会の高齢化は加速度的に進む。年寄りは若者に嫌われないようおとなしく、なんて言っていては生き残れない。特高顔(Ⓒ辺見庸)の首相に温情ある政治など望めやしないのだから。これからは私たちも「くじば」になろう!
枯れてなんていられないぜ。
くそじじいとくそばばあの日本史 / 大塚 ひかり
くそじじいとくそばばあの日本史
  • 著者:大塚 ひかり
  • 出版社:ポプラ社
  • 装丁:新書(232ページ)
  • 発売日:2020-10-07
  • ISBN-10:4591167631
  • ISBN-13:978-4591167632
内容紹介:
貪欲に、したたかに、たくましく生きた老人たち。古典から読み解く、パワフルな生き方の秘訣とは――?『女系図でみる驚きの日本史』著者が綴る、知られざる老人たちの歴史。【目次】はじめ… もっと読む
貪欲に、したたかに、たくましく生きた老人たち。
古典から読み解く、パワフルな生き方の秘訣とは――?
『女系図でみる驚きの日本史』著者が綴る、知られざる老人たちの歴史。

【目次】
はじめに くそ爺婆はかっこいい!

1 正史に残る最高齢者は「くそじじい」だった
…… 老人が社会のお荷物だった時代に580歳まで生き延びた超VIP

2 「ルポライターばばあ」が歴史を作る
……万葉の語り部婆と戦国の記録婆

3 爺婆は最高の「歴史の証人」だ
……お上の歴史は間違っちょる! と歴史書を編纂したじじいパワー

4 凄まじきは老人の権勢欲
……人はなぜ「晩節を汚す」のか? 成り上がりの豊臣秀吉から大貴族、僧侶まで

5 八十一で政界デビュー!! 百歳過ぎても政界に君臨
……前近代にも実在した超老人

6 一休さんはエロじじいだった
……若さを貪る爺婆、婚活詐欺ばばあ、押しかけ婚熟女も

7 平安・鎌倉時代のアンチエイジングばばあ
……実在した驚異の美魔女・美婆

8 戦国時代に「老人科」を作った老医師がいた
……ご長寿医師たちが教える長生きの秘訣

9 昔もいた「迷惑じじい」
……現代に通じるキレる老人たちの実態と子の苦労

10 西鶴の見たくそばばあたち
……男尊女卑の時代に明晰な頭脳や財力で「自分」を貫く

11 昔話のおじいさんとおばあさんは意外と「いい人」が少ない
……一寸法師を厄介者扱い、竹取の翁のセクハラ発言など

12 「鬼婆」の正体
……なぜ「鬼爺」ではなく「鬼婆」なのか

13 前近代の8050問題? 『浦島太郎』の真実
……長生きしてもいいことばかりではない

14 昔の人は短命はウソ! ヤバい老人クリエーター
踏まれても笑われても自分を信じた天才 曾禰好忠
九十過ぎて現役歌人 道因法師
後白河院との若き日のスキャンダルを暴露 待宵小侍従
特殊スキルが老後を助けた乙前
七十二歳で流罪になっても創作に励んだ世阿弥
自分の葬儀のシナリオを用意した四世鶴屋南北
百十歳まで描き続けるつもりだった葛飾北斎
老妻に手こずりながら盲目になっても書き続けた曲亭馬琴
五十二歳にして初婚、三度結婚した遅咲きじじい 小林一茶

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初出メディア

毎日新聞

毎日新聞 2020年11月28日

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