書評

『遊読記―書評集』(河出書房新社)

  • 2017/09/13
遊読記―書評集 / 種村 季弘
遊読記―書評集
  • 著者:種村 季弘
  • 出版社:河出書房新社
  • 装丁:単行本(268ページ)
  • ISBN-10:4309007767
  • ISBN-13:978-4309007762
『書国探検記』(筑摩書房)という本を出したのは一九八四年のことで、あらかた十年ほど前のことになる。これも書評を中心に読書漫遊の旅日記のつもりで編んだ本だった。あらためて読み返してみると、過ぎた日々はなんとなくのんびりしている。書評のスペースに余裕があったせいかもしれない。

今回は、それから後の新聞書評を集めて編んだ。新聞書評は四百字詰め二枚半から三枚というところなので、スペースはずっとすくない。箱抜け奇術師のフーディニが、だんだん箱を小さくしたうえに、全身がんじがらめの縄に縛り上げられていくのに似ている。これはもう芸当というのに近いだろう。

芸当なら芸当らしく、当人も遊び、人様にも遊んでもらうしかない。いきおい、正面切った書評というわけにはいかない。考えてみるとそういうものを書く気もなかったので、それはそれでいいのだと思った。もっとも、当人が遊ばせてもらったと思うほど、人様に遊んで頂けたかどうかは分からない。

ここに集めたのは、主として朝日新聞書評欄に一九八三年四月からの二年間と一九八八年四月からの二年間に書いた書評である。前半の二年間は匿名、後半は署名入りだった。当人としては匿名記名を特に意識したことはない。どれも一種のミニ・エッセイとして気ままに書いた。これ以外にも当然他誌紙に書いた書評はある。これは見開き二貢にまとめるという編集者側のアイデアにつられて割愛した。なお目次構成は新しいものから過去へさかのぼるように立てた。失われし時を求めて。その間に故人になられた著者もすくなくない。

書評者は原著者の書物に巣くう寄生虫だと、以前に書いたことがある。まず気前よく吸血させて下さった宿主のテクストに感謝しなくてはならない。シュタイナーではないが、血は特製のジュースである。どうかすると『遊読記』が『有毒記』になりかねないでもなかったが、口が悪いわりに人は好いという評判もなくはない。つまり馬鹿にされているのである。

それからこの本をミニ・エッセイ集の形にまとめて下さった河出書房新社の内藤憲吾さん、ありがとうございました。また末尾ながら、スペースを提供して下さった朝日新聞をはじめとする各紙の担当者諸兄にお礼を申し上げる。

一九九二年六月八日 種村季弘

【新版】『書国探検記』
書国探検記  / 種村 季弘
書国探検記
  • 著者:種村 季弘
  • 出版社:筑摩書房
  • 装丁:文庫(295ページ)
  • ISBN-10:4480095071
  • ISBN-13:978-4480095077
内容紹介:
今日は澁澤龍彦、山口昌男、明日はユングにカルダーノ、はてはポルノや春本まで、"書物の美食家"エンサイクロペディストによる痛快無比の書物論、読書論。日本、世界の作家、思想家… もっと読む
今日は澁澤龍彦、山口昌男、明日はユングにカルダーノ、はてはポルノや春本まで、"書物の美食家"エンサイクロペディストによる痛快無比の書物論、読書論。日本、世界の作家、思想家、学者などの書物ワールドを、あたかも花を求める蝶のごとくヒラリヒラリと飛び回る。いい香りを嗅ぎ付けては美味な蜜をしっかりと味わい、栄養はたっぷりと吸い取る。いったい厖大な書物のなかの何を読み、どうつきあったらよいのか。そのはてなき書物の大森林におくすることなく分け入り、からみあった複雑な迷宮の謎を解き明かすスリリングな大冒険。

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

遊読記―書評集 / 種村 季弘
遊読記―書評集
  • 著者:種村 季弘
  • 出版社:河出書房新社
  • 装丁:単行本(268ページ)
  • ISBN-10:4309007767
  • ISBN-13:978-4309007762

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

  • 週に1度お届けする書評ダイジェスト!
  • 「新しい書評のあり方」を探すALL REVIEWSのファンクラブ
関連記事
種村 季弘の書評/解説/選評
ページトップへ