書評

『星へ落ちる』(集英社)

  • 2017/07/14
星へ落ちる / 金原 ひとみ
星へ落ちる
  • 著者:金原 ひとみ
  • 出版社:集英社
  • 装丁:単行本(134ページ)
  • 発売日:2007-12-05
  • ISBN-10:4087748979
  • ISBN-13:978-4087748970
内容紹介:
彼との部屋を出て新しい彼と付き合い始めた私。彼が女と浮気をしていると知り自殺を考える僕。彼と共に暮らすことになっても不安なままの私。彼女が突然去ってしまった部屋で待ち続ける俺。彼と結婚することになったが、絶望していく私。夜燃え尽きて朝蘇り、再び夜に燃え尽きる日々。救いなき道を歩み始めたそれぞれの世界の果て。
トヨザキ的評価軸:
「金の斧(親を質に入れても買って読め)」
「銀の斧(図書館で借りられたら読めば―)」
「鉄の斧(ブックオフで100円で売っていても読むべからず)」

過激な傑作『アッシュベイビー』を書いた金原ひとみよ、何処へ?

自著にサインを求められる時よくいただくのが「最近、鉄の斧がないから淋しいです」というお言葉だったりいたしますの。メッタ斬り!のせいで、トヨザキ=毒舌というイメージを持ってる方が多いんでしょうか。実際は褒め評がほとんどなのに。正直、わたしも暇ではないので、読む前から駄作とわかっている小説にまでなかなか手を伸ばせないんです。ですが、悲しいことに、期待して読んだらハズレだったということはたまにあるわけで……。それが金原ひとみの『星へ落ちる』。去年の十二月に出ていたのを読み逃してたんですが、最近ちょっとした暇を見つけて開いてみたんですよ。そしたらば、あなたっ! なんということなの、これは!?

三年間同棲していた彼氏を捨て、男性とルームシェアしている彼を激しく愛するようになってしまった〈私〉。女に彼をとられ嫉妬で頭がおかしくなりそうな〈僕〉。突然家を出てしまった彼女(私)のことがどうしても諦めきれない肉体労働者の〈俺〉。“彼”というとんでもなく魅力的であるらしい男をめぐって交錯する、〈私〉と〈僕〉と〈俺〉三者三様の心理を丁寧に描いた連作短篇集で、彼の心中には一切踏み込まず、あくまでも彼を愛する〈私〉と〈僕〉の目を通してその人となりを描くというスタイルの叙述をとっているんです。

ところが、〈私〉が摂食&睡眠障害になったり、ヘテロの男も魅了できるほどのルックスを備えたモテゲイの〈僕〉が自殺未遂に追い込まれるほどの魅力が、“彼”から一向に感じられないんです。単なる身勝手で冷たいだけの男にしか思えない。それはこの「藪の中」タイプの小説にとっては致命的な欠陥です。もしかすると作者は、「端から見ればそんな酷薄な男に頭がおかしくなるほど執着してしまう。それが恋なのだし、三角関係なのだ」と伝えたいのかもしれませんが、その描写があまりにもクリシェでメロドラマのレベルを超えていないという批判にはどう答えるのでしょうか。

晴れて同居できるようになったのに、今度は自分に隠れて元彼の〈僕〉と会っているのではないかという疑心に駆られるヒロインの、〈私と彼の関係が浮気だった頃は、あの人が私の影に怯えていたのに彼があの人の元を去ってからは、私があの人の影に怯えている〉なんて心境も着地点として陳腐すぎ。赤ん坊しか愛せない究極のペドフィリアを扱って過激な『アッシュベイビー』(集英社文庫)という傑作を書いた金原ひとみよ、何処へ? こんなつまんない三角関係小説に、ただでさえ少なそうなHP(ヒットポイント)を費やしてちゃ、だめじゃん!

アッシュベイビー  / 金原 ひとみ
アッシュベイビー
  • 著者:金原 ひとみ
  • 出版社:集英社
  • 装丁:文庫(188ページ)
  • 発売日:2007-05-18
  • ISBN-10:4087461572
  • ISBN-13:978-4087461572
内容紹介:
キャバクラ嬢のアヤは大学時代の同級生であるホクトと些細なきっかけから同居を始めた。彼は小児性愛者で、大人の女には見向きもしないのだった。ある日、ホクトの知人である村野という冷淡な男に出会い、アヤは強い執着を抱く。しかし、ホクトが家に赤ん坊を連れ込んだことから、すべてが歪み始めた…。欲望の極限まで疾走する愛を描き、いびつな真珠のように美しく衝撃的な恋愛小説。

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【この書評が収録されている書籍】
正直書評。 / 豊崎 由美
正直書評。
  • 著者:豊崎 由美
  • 出版社:学習研究社
  • 装丁:単行本(228ページ)
  • 発売日:2008-10-00
  • ISBN-10:4054038727
  • ISBN-13:978-4054038721
内容紹介:
親を質に入れても買って読め!図書館で借りられたら読めばー?ブックオフで100円で売っていても読むべからず?!ベストセラーや名作、人気作家の話題作に、金、銀、鉄、3本の斧が振り下ろされる。

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星へ落ちる / 金原 ひとみ
星へ落ちる
  • 著者:金原 ひとみ
  • 出版社:集英社
  • 装丁:単行本(134ページ)
  • 発売日:2007-12-05
  • ISBN-10:4087748979
  • ISBN-13:978-4087748970
内容紹介:
彼との部屋を出て新しい彼と付き合い始めた私。彼が女と浮気をしていると知り自殺を考える僕。彼と共に暮らすことになっても不安なままの私。彼女が突然去ってしまった部屋で待ち続ける俺。彼と結婚することになったが、絶望していく私。夜燃え尽きて朝蘇り、再び夜に燃え尽きる日々。救いなき道を歩み始めたそれぞれの世界の果て。

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初出メディア

TV Bros.

TV Bros. 2008年4月12日号

多彩な連載陣のコラムが人気のポップカルチャーTV情報誌。豊﨑由美氏の書評コーナー「帝王切開金の斧」が好評連載中。

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