書評

『読書のデモクラシー』(岩波書店)

  • 2017/10/23
読書のデモクラシー / 長田 弘
読書のデモクラシー
  • 著者:長田 弘
  • 出版社:岩波書店
  • 装丁:単行本(234ページ)
  • 発売日:1992-01-27
  • ISBN:4000015095
内容紹介:
書物と出会う。書物と友達になる。書物と読み手のあいだには親密な空間が醸成される。詩人であって読むことの達人が、この世界に溢れる書物群から、心を打ち記憶に残る言葉を厳選して贈る読書探検。
本書を読んでいて、いつかこういう気分で言葉に出会ったことがある、こんなふうに楽しく、こんなふうにドキドキしながら、こんなふうに嚙みしめるように……と思いつづけていた。その「いつか」を思い出すのには、少し時間がかかった。なぜなら私は、小説か随筆を読んだときのことかと思っていたから。そうではなく、その「いつか」は、十代のはじめごろ使っていた日記帳の、付録のページにあった。

日記帳の後ろのほうには、さまざまな国の、人生や愛に関する格言、小説の一節、あるいは花言葉などが、何ページにもわたって載せられていた。日記を書くよりも私は、そのページをぼんやり眺めるほうが好きで、会うたびに新しい表情を見せる言葉たちと遊んでいた。あの楽しさに似ている。

本書は、数多くの引用から成り立っている。本や言葉をめぐるさまざまな文章が、備忘録風に綴られており、著者の思いが簡潔に述べられている。一つ一つは短いのだけれど(というよりも、短いからこそ?)行間に湛えられているものの深さを、感じずにはいられない。

つまり、第一章「読む」では、私たち自身が読み、第二章「聞く」では、私たち自身が書物の声を聞き、第三章「考える」では、私たち自身が考える。そうしなくては、本書を半分しか読んだことにならないのではないか、と思う。……と、思ったとき、はっとした。

本来、読書とはそういうものだったはずである。ただ内容を受け入れ、理解するだけでは半分なのだ。そこから自分が何を思い、何を考えるか。その一つの実践のあとを鮮やかに見せながら、さらに読者を挑発してくるのが、この本の心憎いところ。

「1ページの本はない。一枚の紙はすでに2ページなのだ。」

「『ギネス・ブック』。政治からライフスタイルまで、理念も、不幸も、芸術もなべて、数量、数値でしか語られないし、ニュースといえば数字と統計ばかりの、奇妙な時代にふさわしい『神曲』。」

「消費をささえるのが、商品の価値よりしばしば商標の価値であるように、読書は、いまでは経験ではなく、話題なのだ。」

「言葉の誤用というのは、意味をまちがえるということではない。言葉を、何か信じられないものにしてしまうということだ。」

「そこには、手袋のような言葉だけがのこっている。手をさしいれていないときも手袋であり、手をさしいれているときも手袋であるような。しかし、この言葉は、手にほかならない『私』をついに語らない。」

いかがです?挑発されませんか。

【この書評が収録されている書籍】
本をよむ日曜日 / 俵 万智
本をよむ日曜日
  • 著者:俵 万智
  • 出版社:河出書房新社
  • 装丁:単行本(205ページ)
  • ISBN:4309009719
内容紹介:
きょうの予定…一日読書。切ない本、わくわくする本、やさしい気持になれる本 実は楽しい古典から、話題のベストセラーまで「ねぇ、これおもしろかったから読んでみて。」。

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

読書のデモクラシー / 長田 弘
読書のデモクラシー
  • 著者:長田 弘
  • 出版社:岩波書店
  • 装丁:単行本(234ページ)
  • 発売日:1992-01-27
  • ISBN:4000015095
内容紹介:
書物と出会う。書物と友達になる。書物と読み手のあいだには親密な空間が醸成される。詩人であって読むことの達人が、この世界に溢れる書物群から、心を打ち記憶に残る言葉を厳選して贈る読書探検。

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初出メディア

朝日新聞

朝日新聞

朝日新聞デジタルは朝日新聞のニュースサイトです。政治、経済、社会、国際、スポーツ、カルチャー、サイエンスなどの速報ニュースに加え、教育、医療、環境、ファッション、車などの話題や写真も。2012年にアサヒ・コムからブランド名を変更しました。

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