頂点極めた大スターの運命と選択
AKB48のメンバーたちは、恋愛禁止なのだそうです。アイドルでもフランクに恋愛する人が多い時代に、そのルールは、目立ちます。AKB48のみならず、聖子ちゃんにしても百恵ちゃんにしても、女性アイドルと恋愛や結婚という問題は、常にファンの心を摑(つか)むものです。処女性こそがアイドルの最大の魅力だとしたら、恋はアイドルにとって最大のタブー。しかしアイドルは、一人の若い娘さんなのであり、恋をしないはずがないのですから。
女義太夫、略して「女義」というジャンルが、その昔はとても熱かったのだという話は、聞いたことがあるのです。明治の頃は、義太夫を語る若い女の子たちが、今で言うならアイドルのような人気者だった、と。
伝統芸能の世界に精通する著者の書き下ろした本書の主人公は、女義界に実在した大スター、竹本綾之助。義太夫の盛んな大阪に生まれ、近所のおじいさんの家で自然と義太夫を覚えた彼女は、天才的な才能を持っていました。ひょんなことから東京に行くと、あれよあれよという間に、大スターに。
感極まって「どうする、どうする」と掛け声をかけることから「ドウスル連」と言われた熱狂的なファンたちと、ハードスケジュールとに追われて恋愛どころではない綾之助でしたが、そんな彼女にも、運命の出会いが待っていました。目の前にあるのは、大好きな義太夫、そして大好きな人との結婚。さあ綾之助、「どうする、どうする?」……。
綾之助は、立派に選んでみせました。その選択は、アイドルとして頂点を見たからこそ、下すことができたのではないかと思われる。
つまりこれは、運命と選択の物語なのでした。「あれも、これも」という人ばかりの今であるからこそ、「あれか、これか」という生き方をする女性の潔さが今は新鮮なのであり、その新鮮さを出すためにAKB48も恋愛禁止にしているのかもね、と本書を読みながら私は思っていたのでした。