書評

『動きの悪魔』(国書刊行会)

  • 2017/11/08
動きの悪魔 / ステファン グラビンスキ
動きの悪魔
  • 著者:ステファン グラビンスキ
  • 翻訳:芝田文乃
  • 出版社:国書刊行会
  • 装丁:単行本(318ページ)
  • 発売日:2015-07-27
  • ISBN-10:4336059292
  • ISBN-13:978-4336059291
内容紹介:
「ポーランドのポー」「ポーランドのラヴクラフト」の異名をとる東欧の恐怖小説作家が描く幻視と奇想に満ちた鉄道怪談小説。

まるで生き物のような機関車に翻弄される

全編が鉄道と蒸気機関車にまつわる話で、鉄道ファンは狂喜乱舞すること間違いなしの短編集です。とはいえ、冷たい恐怖と暗い郷愁とを呼び覚ます作品が多くて、喜んでばかりもいられません。本書は1919年に出版されました。

著者は「ポーランドのポオ」とも呼ばれていたそうで、文章の華麗さ、錯乱した精神の発露、にじり寄る死の気配など、確かに19世紀のポオの香りを彷彿(ほうふつ)させるところがあります。

なにより魅力的なのは、機関車の力強い動きと作中におけるその役割でしょう。機関車自体が一種の凶器であり狂気であり、驚喜ですらあるのです。

さらに駅長、車掌、信号手、乗客などの登場人物が尋常ではありません。たとえば、「汚れ男」に登場するボロンは、「基本的に乗客というものが我慢ならなかった。(略)鉄道は鉄道のために存在するのであって、旅行者のためではなかった。鉄道の任務とは、人々をある場所から別の場所へと交通目的で運ぶことではなく、運行それ自体と空間に打ち勝つことであった。(略)駅があるのはそこで降りるためではなく、移動距離を測るためであった」という考え方の持ち主です。「車室にて」のゴジェンバは「動きの狂信者」で、「いつもは静かで内気な夢想家」なのに「車両のステップに足をかけた途端、見違えるほど」人が変わり、大胆不敵なことをしでかします。

主人公はあくまでも機関車で、人間はそれを引き立てる添え物にすぎません。そのせいか、衝突事故や信号事故でよく人が死にます。そのあっさりした死生観も読みどころのひとつです。

21世紀に読んでも目眩(めまい)がするほどの空間移動を味わえる作品です。
動きの悪魔 / ステファン グラビンスキ
動きの悪魔
  • 著者:ステファン グラビンスキ
  • 翻訳:芝田文乃
  • 出版社:国書刊行会
  • 装丁:単行本(318ページ)
  • 発売日:2015-07-27
  • ISBN-10:4336059292
  • ISBN-13:978-4336059291
内容紹介:
「ポーランドのポー」「ポーランドのラヴクラフト」の異名をとる東欧の恐怖小説作家が描く幻視と奇想に満ちた鉄道怪談小説。

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初出メディア

サンデー毎日

サンデー毎日 2015年8月23日

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