書評
『何者』(新潮社)
読者も一緒に落とし穴へ
話題の平成生まれの作家の手による直木賞受賞作だ。本小説のモチーフは、大学生たちの就職活動である。海外でボランティアに励む、語学を学んでグローバル人材を目指す。そんな、「意識高い系」の学生にありがちな痛い行動の描写は、こういうやついるよね、と思わず相づちを入れたくなる。
登場人物たちは、その行動や台詞(せりふ)で描写されるだけでなく、Twitterを通じても描かれ、FacebookやLINEといった、いまどきのメディアツールもふんだんに登場してくる。
そんな、新しいもの好きな人々の話題に上るのももっともな、トピックに満ちたシニカルな物語は終盤でがらがらっと音を立てて崩れ去り、姿を変える。
本書には落とし穴が用意されているのだ。読んでいる側は、ニヤニヤしながらページをめくっていただけなのに、気が付くと穴の底に落とされている。
単なるどんでん返しではなく、読んでいる側も自身が、穴に落ちているという仕掛けである。さらに、普通の落とし穴であれば、穴を掘った張本人の作者は、上からこちらを笑っているものだ。だが、この小説の場合は、穴を掘った張本人も穴の底にいるのがおもしろい。
さて、この小説、直木賞の受賞時には「現代をとらえた斬新な青春小説」と評価を受けた。筆者の受けた感じとは違う。ネットでも、とらえ方はさまざまのようだ。
なるほど、この小説、読み手の性格次第で受け止め方が多少変わる部分があるのだ。読み手の性格によっては、自身までが落とされることはない。俯瞰(ふかん)して登場人物や彼らの置かれた状況に共感したり、青春を見いだしたりする読み方も可能だ。
本作は、そこまで計算されて構築されているのだろう。これには脱帽するしかない。朝井リョウ、何者だろうか。
朝日新聞 2013年03月03日
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