家事風景が映す時代の流れ
復刊された『よりぬきサザエさん』シリーズがヒット中だ。長い間絶版だったのは、元々の版元が廃業していたから。その出版社の名は姉妹社。長谷川町子が、姉と妹と立ち上げた小さな出版社だった。長谷川の逝去後に、姉妹社は廃業した。
『サザエさん』は、大手出版社からではなく、自費出版同然のスタートだった。第1巻は、まったくヒットしなかった。
当時とは変わり、現在は、漫画抜きには出版が立ちゆかない時代。出版全体の販売部数の約40%を漫画関連が占める。
『サザエさん』が、新聞紙上で連載されていた期間は、1946年から1974年まで。『よりぬきサザエさん』は、長谷川町子自らが選んだ傑作選だ。
『サザエさん』の連載場所が朝日新聞の朝刊に移った1951年4月16日は、マッカーサーが日本を去った日である。その前日まで連載されていた『ブロンディ』は、アメリカの中流家族が描かれた米国産漫画。主婦のブロンディが使う、家電製品は、日本の主婦たちの憧れだった。
『よりぬきサザエさん』にも、家事の道具が描かれる。調理をするのは、マッチで火を付けるタイプの小型のガスコンロ。炊飯器はなく釜で米を炊く。洗濯は、洗濯機でなく洗濯桶でする。
電化されない主婦の家事労働の在り方は、日米で大きく違った。一方、アニメのサザエさん(1969年開始)では、スポンサーに大手家電メーカーが付き、最新の家電が磯野家に導入されていった。『サザエさん』の歴史から、家事の技術革新を見て取ることができる。
新聞連載から単行本、そしてアニメへ。67年の歴史を刻み、アニメではまだ継続中。作品から見比べる日本社会はずいぶん変わったが、皆のサザエさんへの愛は、まだまだ衰えない。