書評
『バースト・ゾーン―爆裂地区』(早川書房)
「テロリンを殲滅せよ!」、ラジオからは戦意高揚のメッセージが四六時中流れ、少しでもテロリンっぽい行動をした者は民衆のリンチによってぶち殺される。どこで起こるのか、いつ終わるのかわからない無差別テロによって、人々が疲弊し、狂気の度合いを深めていく世界が、吉村萬壱の芥川賞受賞第一作の舞台だ――。なんて紹介すると、9・11の同時多発テロ事件に触発された”純文学”だと思うでしょう?ところがどっこい、なのだ。
主な登場人物は五人。病気の妻子を養うために愛人を売春宿で働かせ、稼ぎを搾取する肉体労働者の椹木。椹木のために狂った男たちに抱かれる寛子。売春宿で抱いた寛子に執着し、あとをつけ回す素人画家の井筒。悪事の限りを尽くす麻薬密売人の土門。やぶ医者の斎藤。第一章は、この五人のキャラクターを、彼らが生きている非情の世界を背景に描き、章の終盤で起きる大規模爆弾テロとその後の黙示録的な世界を詳述することで、テロリズムに武力で対抗する現代社会に警鐘を鳴らす的なトーンを保ってはいる。
けれど、五人がそれぞれに異なる理由でテロリンと戦うために大陸へ渡ってからの第二章以降の展開は、絶句ものなのだ。国家が大陸への志願兵を募っているのは、大陸にいるテロリンを殲滅するためであること。大陸では地上最強の武器「神充」の完成が間近いらしいこと。第一章で読者に提示され、先に紹介した五人の登場人物もまた、正しい情報として認識している設定が二つあるんだけれど、なーんかおかしいのだ。まず、寛子が収容された女だけを乗せた輸送船の状況が妙。女とはいえ志願兵には違わないはずなのに、何の訓練も施されないのだ。訓練がないどころの話ではなく、その後船内で起こった頭の悪~いクーデターの結果、生き残った少数の志願兵は大陸に着くや施設に入れられ、飲み食いしたい放題、セックスし放題の腑抜けにされてしまうのだ、あんなに懸命に募っていた志願兵を、なぜ、腑抜けに?
小出しにされるヒントや伏線の疑い濃厚なエピソードから、これから何が起きるかを予測しつつ読み進めながらも、頭の中は「?」でいっぱい。断言いたしましょう。一〇〇人のうち九九人までが二二九ページの衝撃や、「神充」の正体の予想がつけられないことを。これ以上書くとネタバラシになってしまうのでやめますけど、ひとつ云えるのは、普通の戦争小説、冒険小説、もしくは純文学を想像してると脳天突き喰らうってこと。まったくもって予断を許さない小説なのだ。芥川賞受賞作品よりもデビュー作『クチュクチュバーン』がお好みの方に強力プッシュ!クチュクチュというよりグチョグチョなんですけどねー、いろんな意味で。
【この書評が収録されている書籍】
主な登場人物は五人。病気の妻子を養うために愛人を売春宿で働かせ、稼ぎを搾取する肉体労働者の椹木。椹木のために狂った男たちに抱かれる寛子。売春宿で抱いた寛子に執着し、あとをつけ回す素人画家の井筒。悪事の限りを尽くす麻薬密売人の土門。やぶ医者の斎藤。第一章は、この五人のキャラクターを、彼らが生きている非情の世界を背景に描き、章の終盤で起きる大規模爆弾テロとその後の黙示録的な世界を詳述することで、テロリズムに武力で対抗する現代社会に警鐘を鳴らす的なトーンを保ってはいる。
けれど、五人がそれぞれに異なる理由でテロリンと戦うために大陸へ渡ってからの第二章以降の展開は、絶句ものなのだ。国家が大陸への志願兵を募っているのは、大陸にいるテロリンを殲滅するためであること。大陸では地上最強の武器「神充」の完成が間近いらしいこと。第一章で読者に提示され、先に紹介した五人の登場人物もまた、正しい情報として認識している設定が二つあるんだけれど、なーんかおかしいのだ。まず、寛子が収容された女だけを乗せた輸送船の状況が妙。女とはいえ志願兵には違わないはずなのに、何の訓練も施されないのだ。訓練がないどころの話ではなく、その後船内で起こった頭の悪~いクーデターの結果、生き残った少数の志願兵は大陸に着くや施設に入れられ、飲み食いしたい放題、セックスし放題の腑抜けにされてしまうのだ、あんなに懸命に募っていた志願兵を、なぜ、腑抜けに?
小出しにされるヒントや伏線の疑い濃厚なエピソードから、これから何が起きるかを予測しつつ読み進めながらも、頭の中は「?」でいっぱい。断言いたしましょう。一〇〇人のうち九九人までが二二九ページの衝撃や、「神充」の正体の予想がつけられないことを。これ以上書くとネタバラシになってしまうのでやめますけど、ひとつ云えるのは、普通の戦争小説、冒険小説、もしくは純文学を想像してると脳天突き喰らうってこと。まったくもって予断を許さない小説なのだ。芥川賞受賞作品よりもデビュー作『クチュクチュバーン』がお好みの方に強力プッシュ!クチュクチュというよりグチョグチョなんですけどねー、いろんな意味で。
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初出メディア

Invitation(終刊) 2005年8月
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