書評

『銀行ノ生命ハ信用ニ在リ―結城豊太郎の生涯』(日本放送出版協会)

  • 2017/11/21
銀行ノ生命ハ信用ニ在リ―結城豊太郎の生涯 / 秋田 博
銀行ノ生命ハ信用ニ在リ―結城豊太郎の生涯
  • 著者:秋田 博
  • 出版社:日本放送出版協会
  • 装丁:単行本(490ページ)
  • ISBN-10:4140802502
  • ISBN-13:978-4140802502
内容紹介:
「銀行ノ生命ハ信用ニ在リ」「経済はコーポレーション、政治はファイトなり」と言い続け、昭和動乱期を疾駆した、剛腹・勇断の人、元大蔵大臣・第15代日本銀行総裁・結城豊太郎の事績を追う渾身の記録。気骨稜々の金融・財政家“ピープルズ・バンクを創った男”結城豊太郎の生涯を追い、動乱の昭和史を辿る渾身のノンフィクション。

傑出した銀行家の謹厳な生涯

個性的な財界人がたえて久しい。国士型官僚がいなくなってしまったのと同様に、今や国士型経済人も見あたらないと言ってよい。そのような中で結城豊太郎に焦点をあてた本書が刊行された。

もっとも結城豊太郎といっても、大半の人にはピンとこないだろう。若い層には大学受験の日本史で、林銑十郎内閣の大蔵大臣、さらに「軍財抱合財政」の主唱者としてわずかに記憶に止まるにすぎない。

専門家ともなれば、日露戦争の時に日本銀行に入り、理事から安田保善社専務理事、昭和の初めに日本興業銀行総裁、大蔵大臣、戦時期の日本銀行総裁と、戦前の日本をまさにバンカー一筋に生き抜いた人物と知る。ただこれまではイメージがわかなかったのだ、この人については。財政家・金融家としては、山本達雄、高橋是清、井上準之助という、きわめてエピソード豊富な三先達に比べた場合、いかにも地味で謹厳実直、本書の扉写真にみる如く、近寄り難い感じがつきまとう。

なぜなのか。本書を読むと、その道の中枢を歩みながら、歴史的に決定的な瞬間に遭遇したことがないため、正体はこれだと捕まえにくいタイプの人間像であることがわかる。確かに結城が責任ある地位にいた時に、安田保善社(今日の富士銀行グループ)は経営近代化を推進し、興銀は中小商工業金融を積極化し、結城財政の名の下に馬場財政の行きすぎを是正し、戦時金融の元締めとしてしかるべく手を打っている。

奇をてらわず、徒党を組まず。組織の長として全体の方向づけをし、あとは人材登用に意を用いたように見える。だから格別アイディアに富んではいなかったろうし、その面での食い足りなさを周囲が感じたかもしれなかった。だがそれ故にこそ、元老西園寺公望は結城に信頼をよせたのだった。

まさに国士的!安岡正篤との親交、国維会や各種の学校や教育への支援を通して人材育成に力を入れた点に、結城の真骨頂を見ることができる。それは著者の描く通りである。ただし、歴史叙述の面でやや筆の走りなきにしもあらずの感をもつが、「銀行ノ生命ハ信用二在リ」という結城の生涯をシンボリックに表現した彼自身の言葉の重みの中に、そうした瑕疵もすべて抱合されてしまいそうだ。

【この書評が収録されている書籍】
本に映る時代 / 御厨 貴
本に映る時代
  • 著者:御厨 貴
  • 出版社:読売新聞社
  • 装丁:単行本(305ページ)
  • ISBN-10:4643970472
  • ISBN-13:978-4643970470
内容紹介:
『吉田茂書翰』から『ゴーマニズム宣言』まで「日本」を知り、「自分自身」を知る140冊。気鋭の政治学者が放つ渾身の社会時評&読書ガイド。

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

銀行ノ生命ハ信用ニ在リ―結城豊太郎の生涯 / 秋田 博
銀行ノ生命ハ信用ニ在リ―結城豊太郎の生涯
  • 著者:秋田 博
  • 出版社:日本放送出版協会
  • 装丁:単行本(490ページ)
  • ISBN-10:4140802502
  • ISBN-13:978-4140802502
内容紹介:
「銀行ノ生命ハ信用ニ在リ」「経済はコーポレーション、政治はファイトなり」と言い続け、昭和動乱期を疾駆した、剛腹・勇断の人、元大蔵大臣・第15代日本銀行総裁・結城豊太郎の事績を追う渾身の記録。気骨稜々の金融・財政家“ピープルズ・バンクを創った男”結城豊太郎の生涯を追い、動乱の昭和史を辿る渾身のノンフィクション。

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

初出メディア

読売新聞

読売新聞 1996年4月28日

  • 週に1度お届けする書評ダイジェスト!
  • 「新しい書評のあり方」を探すALL REVIEWSのファンクラブ
関連記事
御厨 貴の書評/解説/選評
ページトップへ