前書き

『本に映る時代』(読売新聞社)

  • 2017/12/14
本に映る時代 / 御厨 貴
本に映る時代
  • 著者:御厨 貴
  • 出版社:読売新聞社
  • 装丁:単行本(305ページ)
  • ISBN:4643970472
内容紹介:
『吉田茂書翰』から『ゴーマニズム宣言』まで「日本」を知り、「自分自身」を知る140冊。気鋭の政治学者が放つ渾身の社会時評&読書ガイド。

”歴史法廷”へのいざない――序にかえて――

人はいつ自分の生き様が歴史の一コマになると感じるのだろうか。そう言えば、二十世紀は常に前へ進めの時代であった。後をふり返る余裕などまったくないままに、ひたすら前へ前へと人を駆り立てていった。時代の先端には必ずや青い鳥が待っているに違いないとの信仰を抱きながら。

だが二十世紀も末の九〇年代を迎える頃、突如歴史の逆噴射が始まった。否応なく人は思ってもみなかった過去と対面せざるをえない。それは何か。八九年の昭和天皇崩御、九一年に日米開戦五十年、九三年は「五五年体制」崩壊、九五年が戦後五十年、そして今や早くも世紀末(事務局注:『本に映る時代』出版は1997年)。こうも立て続けに時代を区切る刻印が毎年迫ってくるとは意外や意外。

ようやく人は気がついた。そうか、自分は歴史になるのだと。自分が歴史の鏡に映し出されるとなれば、今度は徹底的に過去にこだわりたい。そうすれば行く先が定かでなくなった未来も、逆に見えてくるかもしれないから。

かくて歴史への回帰でもっとも難しいのは自己照射の試みに他ならない。瀬島龍三『幾山河』(→106頁・事務局注:後日ALL REVIEWS上に掲載予定)に佐々淳行『東大落城」(→72頁・事務局注:後日ALL REVIEWS上に掲載予定)。片や自らの戦時戦後体験を、片や自らの学生反乱収拾体験を縦横に語り明かす。そこで、人は戦中派はおろか団塊の世代まで”歴史法廷”にいざなわれたことに驚きを隠さない。そして彼等の饒舌の中に自己弁明の臭いをかぎ取った同世代の読者は、同時に各人の強烈な体験をただただ忘却の彼方へ追いやってきた自らの自己欺瞞に気付き、茫然(ぼうぜん)と佇(たたず)むことになるのだ。

読売新聞読書欄の読書委員を務めること丸四年。扱った書評九十編余。九三年から九六年まで現れては消え、消えては現れた多くの本は、このように人を立ち止まらせる力を持っていた。おやおや、かつて書評の俎上(そじょう)にのせたあの本この本が、今一度隊列を組んでこちらへやって来るではないか。

本は時代の鏡という。あらためてテーマごとに本を読み返し、本を通して時代をながめてみることにしよう。
本に映る時代 / 御厨 貴
本に映る時代
  • 著者:御厨 貴
  • 出版社:読売新聞社
  • 装丁:単行本(305ページ)
  • ISBN:4643970472
内容紹介:
『吉田茂書翰』から『ゴーマニズム宣言』まで「日本」を知り、「自分自身」を知る140冊。気鋭の政治学者が放つ渾身の社会時評&読書ガイド。

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