書評
『大統領執務室―裸のクリントン政権』(文藝春秋)
肉薄取材で政策決定を再現
クリントン大統領は、ドアの右にあるいちばん好きな椅子(いす)に坐った。足をのせる台がついている。スタッフが一団になって入ってきた。部屋のあちこちにあるソファや椅子に坐った。大統領は足を台にのせ、静かに話しだした。
政権発足半年後のホワイトハウスにおける経済政策をめぐる政策決定のための会議の様子を、著者はあたかもそこにいあわせたかのように描き出す。誰もが一度は覗(のぞ)いてみたい大統領執務室。それも現在進行形の形で。こうした欲求に答えるため、著者は新聞ジャーナリズムと歴史的研究との中間を行く方法を大胆に駆使しホワイトハウスに挑戦する。
いや方法と言ったところで、特にトリッキーな試みをするわけではない。徹底したインタヴューを基にするアメリカならではのオーソドクスな方法に変わりはない。しかしその徹底度と数々の名著を物した著者に対する信頼度とにおいて他を圧倒する。
仮にパーティシパント・オブザーバーが書いたとしても、こうは鮮やかにいくまい。何故なら著者は、自己を主張しすぐにメモを送るホワイトハウス関係者の一人一人の襞(ひだ)の内側に入りこみ、小さな衝突から大きな対立までを全体として鳥瞰(ちょうかん)する構図を作り上げたからだ。
そこには英雄もいなければ、いわゆる危機管理的な事態も発生していない。ただあるのは、経済政策というわけのわからぬ難物の処理に奔走する関係者の姿だけだ。冒頭に示した会議がダッチローリングのあげく、「大統領のもとに問題がもちこまれる時期が早すぎる」と判断したヒラリーの一声で打ち切られるのは、まことに印象的である。
翻って日本ではどうか。未だ評価定まらぬ政策決定を、インタヴューとメモだけから再構成することは、絶望的なまでに難しい。どうやら「首相官邸」における政策決定は、アメリカとはまったく異なる様相を呈しているらしいから。山岡洋一、仁平和夫訳。
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