書評
『超男性』(白水社)
意外と、スポーツマンの作家は多い。有名どころだと、ヘミングウェイ、ジョン・アーヴィング、横光利一、村上春樹、アルチュール・クラヴァンあたりがパッと思い浮かぶけど、シュルレアリストたちのアイドル的存在だったアルフレッド・ジャリこそが、わたしにとってのスポーツマン作家の代表なのである。
フェンシング、釣り、自転車、ピストル。正規の年齢以前に楽々とバカロレア(大学入学資格試験)に合格、どの学科でも秀才ぶりを発揮し、万巻の書を読破したこの神童は、スポーツでもまた"この星の一等賞"にならなければ気がすまなかった。その上、大酒呑み。実人生を自ら生み出した芸術作品に重ねるかのように、数々の奇行を繰り返した何から何まで規格外の"超男性"、それがジャリなのだ。
代表作のひとつ『超男性』は、ジャリのそうしたスポーツに向ける愛着、というか偏執が濃厚に反映された作品だ。「恋愛なんて取るに足らない行為ですよ。際限なく繰り返すことができるんですからね。」と言い放つ主人公のマルクイユ。彼は客たちに、セックスなど何度だって反復できる、「かのインド人は、『ある種の植物の力を借りて一日に七十回以上行った』」と主張。自らインド人に扮装してそれを証明してみせるのだ。まさにスポーッ競技に挑むような熱心さと真剣さをもって、八二回も! マルクイユの超人的な精力譚に併走する形で、この小説にはもうひとつのとんでもない競技が行われる。それは五人乗り自転車と機関車の一万マイル競争。選手たちは五日間、自転車を漕ぎ続ける。マルクイユの性交記録挑戦のお相手、エレンの父親が発明した永久運動食を食べながら、糞尿を垂れ流しながら。仲間の一人が死ねば、その死体と共に。時速三〇〇キロの猛スピードで!
愛もセックスもスポーツのようなもんでしょっ。女嫌いで知られたジャリらしい奇想と悪戯精神に溢れた、今読んでも新鮮な驚きをもたらしてくれる、これは永久不滅の傑作なのだ。二一世紀に入っても、やっぱりジャリはカッコイイ!
【この書評が収録されている書籍】
フェンシング、釣り、自転車、ピストル。正規の年齢以前に楽々とバカロレア(大学入学資格試験)に合格、どの学科でも秀才ぶりを発揮し、万巻の書を読破したこの神童は、スポーツでもまた"この星の一等賞"にならなければ気がすまなかった。その上、大酒呑み。実人生を自ら生み出した芸術作品に重ねるかのように、数々の奇行を繰り返した何から何まで規格外の"超男性"、それがジャリなのだ。
代表作のひとつ『超男性』は、ジャリのそうしたスポーツに向ける愛着、というか偏執が濃厚に反映された作品だ。「恋愛なんて取るに足らない行為ですよ。際限なく繰り返すことができるんですからね。」と言い放つ主人公のマルクイユ。彼は客たちに、セックスなど何度だって反復できる、「かのインド人は、『ある種の植物の力を借りて一日に七十回以上行った』」と主張。自らインド人に扮装してそれを証明してみせるのだ。まさにスポーッ競技に挑むような熱心さと真剣さをもって、八二回も! マルクイユの超人的な精力譚に併走する形で、この小説にはもうひとつのとんでもない競技が行われる。それは五人乗り自転車と機関車の一万マイル競争。選手たちは五日間、自転車を漕ぎ続ける。マルクイユの性交記録挑戦のお相手、エレンの父親が発明した永久運動食を食べながら、糞尿を垂れ流しながら。仲間の一人が死ねば、その死体と共に。時速三〇〇キロの猛スピードで!
愛もセックスもスポーツのようなもんでしょっ。女嫌いで知られたジャリらしい奇想と悪戯精神に溢れた、今読んでも新鮮な驚きをもたらしてくれる、これは永久不滅の傑作なのだ。二一世紀に入っても、やっぱりジャリはカッコイイ!
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