書評
『Fire and Fury』(Little, Brown)
▼トランプの多くの政策は、ジャレッドとイヴァンカ(バノンは2人をセットにして「ジャーヴァンカ」とバカにするニックネームで呼んだ)とバノンの2大勢力の戦いの結果であった。
▼極右の政策が通ってきたのはバノンの勝利で、オバマ大統領の医療保険制度改革の破棄や税制改革は、ポール・ライアン下院議長によるもの。
▼「パリ協定脱退」は、協定に残ることを強く推すイヴァンカに対する、バノンの勝利だった。バノンは「やったぜ(Score)」、「あのビッチはこれで終わりだ(The bitch is dead)」と勝利を祝った。
▼トランプはメディアへの情報漏洩について怒りを示したが、バノンはクシュナー夫妻についてダメージがある情報を故意に流し、クシュナー夫妻は逆にバノンについて流した。全員が疑心暗鬼となって敵を倒す企みをしており、ウルフによると「全員が 情報漏洩者」だった。
▼しかし最大の情報漏洩者は、ウルフによるとトランプ自身だ。「大統領は、喋るのをやめられない」とウルフは書く。テレビで自分についてネガティブな話を聞くと、友人などに電話して30~40分にわたって、失敗を他人のせいにし、愚痴を言い続ける。それが習慣化している。電話を受け取ったほうは、会話の内容に驚き、心配し、他の者に打ち明ける。その内容が広範囲に広まる。
▼選挙中の6月、トランプの長男ドナルド・ジュニアとイヴァンカの夫ジャレッド・クシュナー、当時の選対本部長ポール・マナフォートの3人は、トランプタワーでロシア人のアラス・アガラロフに会った。アガラロフはロシア政府のロビイストで諜報部員の疑いもある人物。会合の内容は、ヒラリー・クリントンに関するネガティブな情報を提供するという申し出だった。率先したのはジュニアで、イヴァンカとジャレッドに促され、父の歓心を買うつもりだった。この件については、会合の前に複数の受信者つきで多くのメールが交わされていた。
▼バノンは後にそれを知り、「たとえそれが国家への背信的行為か、非国民なことか、くそったれなことだと思わなくても、俺は全部だと思うがね、即座にFBIを呼ぶべきだった」と語っている。
▼一時期はトランプのブレイン的な存在だったバノンだが、クシュナー夫妻だけでなく内部に多くの敵を作りすぎた。そして、「アメリカン・プロスペクト」誌のロバート・カットナーの取材に応じて、対中、対北朝鮮政策に関してトランプと異なる持論を述べ、同僚を堂々と批判したことが失脚の決定打になった。
ウルフの暴露本に対し、トランプは報道官を通じて次のような声明を出した。「スティーブ・バノンは、私や大統領の地位には無関係だ。クビになったとき、彼は仕事を失っただけでなく、正気も失った」
引き続きトランプは著者のウルフとバノンをツイッターで攻撃している。そして、連続ツイートで自画自賛した。
「生涯を通しての私の2つの偉大な利点は、精神的な安定と、なんというか、すごく賢いことだ。悪徳ヒラリーもこれらの切り札を懸命に使ったけれど、みんなも知っているように、破滅した。私は、非常に成功したビジネスマンから、テレビのトップスターになり、(初めての試みで)アメリカ大統領になった。私は賢いだけでなく、天才としての資格があると思う......しかも、非常に安定した天才だ」
これまでの大統領では想像できない子供じみた対応だが、トランプに関して言えば予想どおりだ。
あまりにも想定内であるため、トランプ自身がウルフの暴露本の信憑性を高めている。この本に描かれているトランプの人物像そのものなのだから。
『Fire and Fury』には、トランプの人間関係のパターンも記されている。周囲には絶対の忠誠を誓わせるくせに、忠誠を示す者に残酷な仕打ちをする。また、人を利用したいときにはチャーミングになって仲良くなるが、いったん利用価値がなくなった者へは非常に冷淡になる。元FOXニュースCEOのロジャー・アイレスは、本部長にならなかったものの、トランプとバノンを影で援助し続けた。だが、彼が急死したとき、トランプは葬儀で未亡人にメッセージすら送らなかったという。
バノンに対する手のひらを返したような態度も同類だ。白人至上主義者を取り込むバノンの戦略がトランプの意外な勝利に貢献したのは事実だし、バノンに感謝するツイートもしている。それなのに、今となっては「勝利に彼は関係ない」と否定している。
この暴露本は、特に重要な新事実は提供していない。
だが、人間としてのトランプの卑小さは露呈している。
アメリカには、何があってもトランプ大統領への支持を変えない強固な支持者が38%ほどいる。だが、人は論理ではなく、感情で動くものだ。あまり期待はできないものの、暴露本がこの数字に影響を与えるかもしれない。
支持率の数字が明らかに下落したら、これまではおおっぴらにトランプに反発できなかった共和党議員も自分の地位を守るために動き出すだろう。そこが今後の注目点になる。
【日本語版(2018/2/28発売)】
▼極右の政策が通ってきたのはバノンの勝利で、オバマ大統領の医療保険制度改革の破棄や税制改革は、ポール・ライアン下院議長によるもの。
▼「パリ協定脱退」は、協定に残ることを強く推すイヴァンカに対する、バノンの勝利だった。バノンは「やったぜ(Score)」、「あのビッチはこれで終わりだ(The bitch is dead)」と勝利を祝った。
▼トランプはメディアへの情報漏洩について怒りを示したが、バノンはクシュナー夫妻についてダメージがある情報を故意に流し、クシュナー夫妻は逆にバノンについて流した。全員が疑心暗鬼となって敵を倒す企みをしており、ウルフによると「全員が 情報漏洩者」だった。
▼しかし最大の情報漏洩者は、ウルフによるとトランプ自身だ。「大統領は、喋るのをやめられない」とウルフは書く。テレビで自分についてネガティブな話を聞くと、友人などに電話して30~40分にわたって、失敗を他人のせいにし、愚痴を言い続ける。それが習慣化している。電話を受け取ったほうは、会話の内容に驚き、心配し、他の者に打ち明ける。その内容が広範囲に広まる。
▼選挙中の6月、トランプの長男ドナルド・ジュニアとイヴァンカの夫ジャレッド・クシュナー、当時の選対本部長ポール・マナフォートの3人は、トランプタワーでロシア人のアラス・アガラロフに会った。アガラロフはロシア政府のロビイストで諜報部員の疑いもある人物。会合の内容は、ヒラリー・クリントンに関するネガティブな情報を提供するという申し出だった。率先したのはジュニアで、イヴァンカとジャレッドに促され、父の歓心を買うつもりだった。この件については、会合の前に複数の受信者つきで多くのメールが交わされていた。
▼バノンは後にそれを知り、「たとえそれが国家への背信的行為か、非国民なことか、くそったれなことだと思わなくても、俺は全部だと思うがね、即座にFBIを呼ぶべきだった」と語っている。
▼一時期はトランプのブレイン的な存在だったバノンだが、クシュナー夫妻だけでなく内部に多くの敵を作りすぎた。そして、「アメリカン・プロスペクト」誌のロバート・カットナーの取材に応じて、対中、対北朝鮮政策に関してトランプと異なる持論を述べ、同僚を堂々と批判したことが失脚の決定打になった。
ウルフの暴露本に対し、トランプは報道官を通じて次のような声明を出した。「スティーブ・バノンは、私や大統領の地位には無関係だ。クビになったとき、彼は仕事を失っただけでなく、正気も失った」
引き続きトランプは著者のウルフとバノンをツイッターで攻撃している。そして、連続ツイートで自画自賛した。
「生涯を通しての私の2つの偉大な利点は、精神的な安定と、なんというか、すごく賢いことだ。悪徳ヒラリーもこれらの切り札を懸命に使ったけれど、みんなも知っているように、破滅した。私は、非常に成功したビジネスマンから、テレビのトップスターになり、(初めての試みで)アメリカ大統領になった。私は賢いだけでなく、天才としての資格があると思う......しかも、非常に安定した天才だ」
これまでの大統領では想像できない子供じみた対応だが、トランプに関して言えば予想どおりだ。
あまりにも想定内であるため、トランプ自身がウルフの暴露本の信憑性を高めている。この本に描かれているトランプの人物像そのものなのだから。
『Fire and Fury』には、トランプの人間関係のパターンも記されている。周囲には絶対の忠誠を誓わせるくせに、忠誠を示す者に残酷な仕打ちをする。また、人を利用したいときにはチャーミングになって仲良くなるが、いったん利用価値がなくなった者へは非常に冷淡になる。元FOXニュースCEOのロジャー・アイレスは、本部長にならなかったものの、トランプとバノンを影で援助し続けた。だが、彼が急死したとき、トランプは葬儀で未亡人にメッセージすら送らなかったという。
バノンに対する手のひらを返したような態度も同類だ。白人至上主義者を取り込むバノンの戦略がトランプの意外な勝利に貢献したのは事実だし、バノンに感謝するツイートもしている。それなのに、今となっては「勝利に彼は関係ない」と否定している。
この暴露本は、特に重要な新事実は提供していない。
だが、人間としてのトランプの卑小さは露呈している。
アメリカには、何があってもトランプ大統領への支持を変えない強固な支持者が38%ほどいる。だが、人は論理ではなく、感情で動くものだ。あまり期待はできないものの、暴露本がこの数字に影響を与えるかもしれない。
支持率の数字が明らかに下落したら、これまではおおっぴらにトランプに反発できなかった共和党議員も自分の地位を守るために動き出すだろう。そこが今後の注目点になる。
【日本語版(2018/2/28発売)】