書評

『天皇家のお葬式』(講談社)

  • 2018/08/20
天皇家のお葬式 / 大角 修
天皇家のお葬式
  • 著者:大角 修
  • 出版社:講談社
  • 装丁:新書(272ページ)
  • 発売日:2017-10-18
  • ISBN:406288450X
内容紹介:
天皇の葬儀は時代の変化を映す。日本で初めて火葬された天皇といえば? 江戸時代までは仏式だったのに明治以降はなぜ神式?

残される者たちへの思いが「おことば」の中に滲(にじ)んでいる

昨年八月(ALL REVIEWS事務局注:本書評執筆時期は2017年11月)、天皇陛下はビデオメッセージのかたちで生前退位を望む旨の「おことば」を述べられた。これを受けて急拠(きゅうきょ)、生前退位を可能にする皇室典範特例法が成立した。

このことはよく知られているが、天皇が「おことば」のなかで、自身の葬儀についても語られていたことは、ほとんどの人が知らないだろう。旧来のしきたりでは重い行事が2カ月にわたって続き、そのあとも関連する行事がまる一年間続く。関係者、とりわけ残される家族は「非常に厳しい状況下」に置かれる。こうした事態を避けることはできないものか。

大正天皇、昭和天皇とも土葬だったが、宮内庁の発表によると、「御喪儀のあり方」にも「天皇皇后両陛下のお気持ち」ははっきりしていて、火葬を希望、御陵はなるたけ簡素とすること。

おりもおり、いい本が出た。古代から現代までの天皇家の葬儀、とりわけ明治、大正、昭和三代に重点を置いて語っている。それこそ「明治維新以来の近現代日本の歩みを鏡のように映す出来事」であったからだ。

おおかたの人が気づくだろう。天皇制とは空気のようになじんできたのに、天皇家については、何ひとつ知らなかったということ。たとえば明治天皇には皇后に子がなく、何人もの側室から十五人の子が生まれたが、成人したのは四人きりで、男子は一人だけ。のちの大正天皇であって、皇后の実子とされた。

大正天皇は「偉大な」明治天皇と昭和天皇にはさまれて影が薄いが、古くからの側室制が廃止され、一夫一婦制となったのは大正天皇からであるし、わが子を直接育て、ニューファミリー型の皇室が誕生したのもこの天皇からである。牧野伸顕(のぶあき)といった英明な宮内大臣がうしろにいたせいもあるが、大正天皇の自由闊達(かったつ)な人となりもあずかっていたと思われる。この本のうれしいところだが、歴史的経過を終えてのち、そっとささやくように書きそえている。「大正天皇がいなかったら、今の天皇家は続いていなかった」

側室によらずに四人の皇子をもたらし、それぞれ昭和天皇、秩父宮、高松宮、三笠宮として昭和の時代をいろどった。だがその大正天皇の病と死あたりから「強まる全体主義の予兆」であるかのように、国をあげてものものしい大葬風景を呈していく。

昭和天皇の葬儀をめぐっては、いまある世代以上の日本人は、自らの直接体験として経過に立ち会っている。しかし、いかなる葬儀をなすべきかについては法令がなく、立法化もされず、「従前の例に準じて処理する依命通牒」を踏襲するかたちで行われたことは、まるで知らなかった。いかにも苦肉の策であるが、著者は述べている。「それはそれで、ひとつの知恵である。もし、天皇の葬儀を立法化しようとすれば、もっと鋭く憲法との関係が問われ、にっちもさっちもいかなくなることは必至であろう」

死を自覚した人は強いのだ。近年の天皇、皇后の各地への行幸はきわだっている。とりわけ太平洋戦争の激戦地を巡り、深々と頭を下げる姿は、ひときわ鮮烈だ。あきらかに時代の動向への危惧と批判をこめてのことにちがいない。いわば「聖なる巡礼者」の姿と私には思えるのだが、憲法をいじりたくてならないおひとは、どんな目で見ているのだろう?
天皇家のお葬式 / 大角 修
天皇家のお葬式
  • 著者:大角 修
  • 出版社:講談社
  • 装丁:新書(272ページ)
  • 発売日:2017-10-18
  • ISBN:406288450X
内容紹介:
天皇の葬儀は時代の変化を映す。日本で初めて火葬された天皇といえば? 江戸時代までは仏式だったのに明治以降はなぜ神式?

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初出メディア

サンデー毎日

サンデー毎日 2017年11月26日号

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