書評

『皇后四代の歴史: 昭憲皇太后から美智子皇后まで』(吉川弘文館)

  • 2019/03/21
皇后四代の歴史: 昭憲皇太后から美智子皇后まで /
皇后四代の歴史: 昭憲皇太后から美智子皇后まで
  • 編集:森 暢平,河西 秀哉
  • 出版社:吉川弘文館
  • 装丁:単行本(222ページ)
  • 発売日:2018-05-25
  • ISBN-10:4642083332
  • ISBN-13:978-4642083331
内容紹介:
4人の皇后の役割や社会の中でのイメージは、時代とともに大きく変容してきた。公(表)と私(奥)をテーマに、歩みを描く。

象徴天皇に直結する本質

皇后という存在は、憲法にも明記されず、その意味では天皇の配偶者であるにすぎない。にもかかわらず、時には政治に社会に天皇以上の影響力を持つ。本書は明治、大正、昭和、平成の4代の皇后の在り方をめぐる複数の研究者からの問い掛けである。

現天皇は憲法に規定のない生前退位の理由として、高齢のため被災者などへの慰撫(いぶ)がなしがたいことを挙げた。しかし「救恤(きゅうじゅつ)あるいは慈恵」という行為と思想は、むしろ明治以後の皇后の在り方と切り離せない歴史を持つことを本書は解き明かす。

日本が重大な危機に陥った際に例を絞ると、明治の昭憲皇后は日清戦争の際には反対する天皇を説得して広島の大本営に赴き、日本の戦傷兵だけでなく清国の兵にも義手義足の下賜とその後のケアに配慮を示した。大正の貞明皇后は関東大震災が発生すると直ちに巡回救護班を設置し、視察慰問を続けた。12月まで被災者と同様の夏服で過ごしたことなど、エピソードも豊富だ。

昭和の香淳皇后も日中戦争から敗戦に至る前代未聞の状況で戦死者の遺族への慰撫をはじめ、国防婦人会の防空演習の視察、軍需工場に動員された女性たちの激励など、天皇が担わない部分をカバーする役割を果たした。

このような皇后像は常に政治に利用される側面を持つが、現在は皇室自身がメディアを積極的に使い、自己イメージを創りあげようとしている、という指摘は鋭い。「テニスコートの恋」以来、「平民」という時代錯誤の言葉の検証抜きに同階層出身とされた平成の美智子皇后が「皇室に新しい風を吹き込んだ」と称賛された皇太子妃時代のミッチーブーム。その後、バブル経済の影響で国民の関心が薄れた時期を経て、東日本大災害などを機に「国民に寄り添う」伝統的な皇后の仕事を天皇とペアで果たし、新しい皇室の姿を示してきた。

4代の事跡を通して、皇后とは何かを問う本書は、同時に象徴天皇とは何かという問題提起を含んでいる。

[書き手]入江 曜子(ノンフィクション作家)
皇后四代の歴史: 昭憲皇太后から美智子皇后まで /
皇后四代の歴史: 昭憲皇太后から美智子皇后まで
  • 編集:森 暢平,河西 秀哉
  • 出版社:吉川弘文館
  • 装丁:単行本(222ページ)
  • 発売日:2018-05-25
  • ISBN-10:4642083332
  • ISBN-13:978-4642083331
内容紹介:
4人の皇后の役割や社会の中でのイメージは、時代とともに大きく変容してきた。公(表)と私(奥)をテーマに、歩みを描く。

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初出メディア

時事通信社

時事通信社 2018年8月配信

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