書評
『天皇家の仕事―読む「皇室事典」』(文藝春秋)
会見、財政のオープン化提言
世紀末の代替わりは、天皇家においても着実に進んでいる。そして現天皇の即位や皇太子の結婚を通じて、あらためて象徴天皇制の意義と役割を考え直す時に来ている(ALL REVIEWS事務局注:本書評執筆時期は1993年)。しかしこの問題にふみこもうとする時、天皇及び皇室について信頼できる手がかりが、いかにも少ないことに気付く。キワモノは多いのだが。本書は、戦後天皇制の定着過程に関心をもつ気鋭の皇室ジャーナリストの手になるもの。足でかせぎ膚を通して感じた現場の空気を基に、他の文献資料ともつき合わせながら、“天皇家の仕事”を一つ一つ解説していく。平成のプリンセス選考事情を導入部とし、「天皇会見」や「皇室外交」など政治的争点化を招きやすい事柄に移り、ルーティンワーク化した「園遊会」や「行幸啓」等の儀式と祭祀(さいし)に及ぶ。次いで「宮家」の歴史や「帝王学」を通じて皇太子と皇族について叙述し、「オモテ」と「ウラ」や「勤労奉仕」といった皇室を支える人々を浮き彫りにする。最後に、「靖国」「元号」「皇室財政」「天皇陵」など残された問題を一括して扱っている。
本書の特徴は、基本的な事実については可能な限り客観的であろうとしながら、随所で著者の価値判断をはっきりとさせていることだ。たとえば、現天皇との記者会見は公式化したがために逆に皇太子時代より回数がへってしまった。天皇夫妻や宮内庁が会見を好まぬことをも指摘しつつ、著者はテレビの活用を含めたオープンなスタイルを示唆する。同様に宮中の儀式についても中世以来の伝統を生かしながら、なお平成の新例を開くことを奨める。さらに皇室財政の明確化と諸費用の軽減化も著者の主張するところだ。宮内庁の柔軟な対応を期待したい。
このように全般にオープン志向であるにもかかわらず、「皇室外交」と「お言葉」に関しては、象徴天皇制を逸脱した政治化に著者は断固として反対する。政治家や外務省が、あとさきの長期的配慮なしに当面の政治的課題のために天皇家を利用してはならないのは当然であろう。
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