書評
『三つの小さな王国』(白水社)
三つの小さな王国
中篇というと、たいていは長すぎる短篇というか、短すぎる長篇というか、まさに帯に短しタスキに長しという印象があるが、このジャンルにぴったりの才能をコツコツ生かし続けているのがスティーヴン・ミルハウザーである。緻密な想像力を駆使し、からくり人形、ゲームの世界などを細部まで描きつくした秀作中篇を書いてきた人だが、新作『小さな王国』(Little Kingdoms)は中篇ばかりを三本収めている(ALL REVIEWS事務局注:本書評執筆時期は1994年1月)。
「J・フランクリン・ペインの小さな王国」はアニメーション映画の初期に、分業・大量生産の流れに抗して手描きの動画に固執する男の物語、モデルは明らかに『眠りの国のニモ』の作者ウィンザー・マッケイと、映画の前身テアトル・オプティックの発明者エミール・レイノーの二人だが、その職人芸的なひたむきさは、だれよりもまず作者自身と重なる。
「王妃、小人、土牢」は嫉妬に狂った君主、狡猪な小人、夫の嫉妬の犠牲となる王妃、と『オセロー』を踏まえた設定にはじまり、嫉妬が生む妄想、作家がつむぎ出す幻想とが、どんどんふくらんでいく。
日本でもすでにアンソロジー『幻想展覧会1』(バトリック・マグラア、ブラッドフォード・モロー編)に収録された「展覧会のカタログ」は風変わりな画家の作品解説というかたちをとって、二組の兄妹をめぐる数奇な四角関係を描き出す。三作とも甲乙つけがたい、ミルハウザー愛好者にはたまらない一冊である。
【この書評が収録されている書籍】
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