書評
『ゆうれいホテル』(大日本絵画)
"おねえさん"の本選び
いま、息子が一番ひいきにしている本、それは『ゆうれいホテル』だ。毒々しい色合いの表紙に、ドラキュラがニッと笑っている。「きけんですよ ゆうれいしかけえほん」とあるように、さまざまな仕掛けのある飛びだす絵本だ。私の若いいとこが、息子にプレゼントしてくれた。もし自分が本屋さんで見かけても、決して手にとらないタイプの本だなあと思う。ゆうれいホテルのメニューは、「ちのりジャムのトースト・しんせんなゴキブリのたたきをそえたのうみそ・しらみいりのうじむしアイスクリーム」などなどだし、ページをめくるごとに飛びだしてくるのは、ガイコツや幽霊やフランケンシュタイン……。
いとこの“おねえさん”のセンスに、やや引き気味だった私が、おっかなびっくり読むのが、かえっておもしろかったのだろうか。息子は来る日も来る日も、「ゆうれいホテル」三昧(ざんまい)である。
「ばあばにも読んでもらったら?」と、おばあちゃんにバトンを渡すと、私の母がまた、「うわあ気持ち悪いねえ」「おお恐い!」「おやおや、ここに蜘蛛がいる。アリもいる」と大騒ぎしながらページをめくるので、いっそう盛り上がる。
そのうち息子は、ロフト(マンションについている屋根裏部屋のようなところで、はしごを使って昇ります)にこの本を置き、「ねえねえ、あそこ、ゆうれいホテルなんだけど、いってみない?」という、ごっこ遊びをするようになった。
「えっ、ゆうれいホテル?どんなメニューがあるの?」
「あのね、しんせんなゴキブリのたたきをそえたのうみそとかね、あるの」
「うわ~そんなの食べたくないなあ」
「でもいこうよ、ひとりじゃこわいから、ついてきて」
「よし、じゃあ、行ってみるか」
「うん!」
だいたいこんな流れで、そろりそうりと本に近づき、一ページ目の「これはようこそいらっしゃいました。はやくこないかとそればっかり……」というくだりから、ひととおり楽しむ。薄暗いところでめくる『ゆうれいホテル』は、なかなかの迫力だ。
本を読むというより、本で遊ぶという感じだが、しかけ絵本というのは、こういう遊びにぴったりだ。
くわえて反省したのは、自分の本の選び方。心やさしい主人公が出てきたり、ちょっと教訓的だったり……親の目で選ぶと、どうしても教育的な配慮の働いた選択になってしまう。もちろん、そういう本もいいのだけれど、いっぽうで『ゆうれいホテル』のような本も、子どもの世界を広げてくれることを知った。
いろんな大人が、いろんなセンスで、子どもに本をプレゼントするのって、案外大事なことかもしれない。
【この書評が収録されている書籍】
朝日新聞 2007年1月24日
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