書評

『安全神話崩壊のパラドックス―治安の法社会学』(岩波書店)

  • 2017/09/06
安全神話崩壊のパラドックス―治安の法社会学 / 河合 幹雄
安全神話崩壊のパラドックス―治安の法社会学
  • 著者:河合 幹雄
  • 出版社:岩波書店
  • 装丁:単行本(320ページ)
  • 発売日:2004-08-26
  • ISBN-10:4000220233
  • ISBN-13:978-4000220231
内容紹介:
「日本は犯罪の少ない安全な社会である」という安全神話が揺らぎつつある。しかしはたして、犯罪が増加し、凶悪化が進んでいるという認識は正しいのか。著者は、統計資料の徹底的な読み込みを通してわが国の犯罪状況を分析し、近年の通説が現実を正しく反映していないことを考証。なぜそのような言説… もっと読む
「日本は犯罪の少ない安全な社会である」という安全神話が揺らぎつつある。しかしはたして、犯罪が増加し、凶悪化が進んでいるという認識は正しいのか。著者は、統計資料の徹底的な読み込みを通してわが国の犯罪状況を分析し、近年の通説が現実を正しく反映していないことを考証。なぜそのような言説が一般的にまかり通ることになったのか、その背景と言説自体がもつ意味を明らかにしたうえで、欧米社会との比較考察をも加えつつ、今後の社会変化と法状況の将来を展望する。法とは何かを問うことを通して、わが国における司法制度や社会関係のあるべき姿について考察した、気鋭の法社会学者による刺激的な問題提起である。

犯罪増はなく、境界の崩れが不安呼ぶ

リストラが横行し、年金制度も破綻(はたん)が予感されている。牛海綿状脳症(BSE)騒動で食の安心も脅かされた。加えて、「日本には犯罪が少ない」という安全神話も揺らぎつつある。まったく不安だらけだぜ、というのが国民の一般的な心情だろう。

ところがこと犯罪に関しては増えても凶悪化してもいない、と著者は言う。それでいて我々は、皮膚感覚としては確かに安全が脅かされていると感じる。なぜだろう? 本書はこの謎を、法社会学の視点から切れ味鋭く解き明かす。

まず、グラフを駆使しつつ事実が示される。一般刑法犯は近年急増しているが、自転車盗が急増部分で、除外すると微増にすぎない。凶悪犯はというと、殺人は50年代から減り続けてこの10年は横ばい。強盗は急増しているものの、ひったくりや集団でのカツアゲを統計に組み込んだせい。検挙率が急降下しているが、ほぼ窃盗犯検挙率の低下に相当している。警察が、軽微な余罪の追及には人員を回さなくなったかららしい。意外さに、あっけにとられた。

後半が、謎解きである。ポイントは、刑法の運用。日本では、累犯者はヤクザの世界など「境界」の向こうに隔離されるか、もしくは刑事や保護官といった「現場の鬼」が彼らにサシで対面しつつ謝罪させ、こちらの社会へ復帰する世話をしてきた(個別主義)。そうした裁量によって犯罪を「ケガレ」として一括する境界線が維持され、安全神話が語られた、という仮説である。犯罪そのものも、繁華街や夜間という一般人が近づかぬ領域で起きていた。境界が崩れ、「現場の鬼」が人手不足になって、「住宅街」で「昼間」に犯罪を見聞きするようになったのが、我々の皮膚感覚を過度に刺激するのだ、と。

経済にせよ、不安対策は法の透明な運用で、というのが昨今の風潮である。本書の仮説が正しければ、犯罪についてはそれだと皮膚感覚上、逆効果になるはず。

安易な改革に警鐘を鳴らす力作である。
安全神話崩壊のパラドックス―治安の法社会学 / 河合 幹雄
安全神話崩壊のパラドックス―治安の法社会学
  • 著者:河合 幹雄
  • 出版社:岩波書店
  • 装丁:単行本(320ページ)
  • 発売日:2004-08-26
  • ISBN-10:4000220233
  • ISBN-13:978-4000220231
内容紹介:
「日本は犯罪の少ない安全な社会である」という安全神話が揺らぎつつある。しかしはたして、犯罪が増加し、凶悪化が進んでいるという認識は正しいのか。著者は、統計資料の徹底的な読み込みを通してわが国の犯罪状況を分析し、近年の通説が現実を正しく反映していないことを考証。なぜそのような言説… もっと読む
「日本は犯罪の少ない安全な社会である」という安全神話が揺らぎつつある。しかしはたして、犯罪が増加し、凶悪化が進んでいるという認識は正しいのか。著者は、統計資料の徹底的な読み込みを通してわが国の犯罪状況を分析し、近年の通説が現実を正しく反映していないことを考証。なぜそのような言説が一般的にまかり通ることになったのか、その背景と言説自体がもつ意味を明らかにしたうえで、欧米社会との比較考察をも加えつつ、今後の社会変化と法状況の将来を展望する。法とは何かを問うことを通して、わが国における司法制度や社会関係のあるべき姿について考察した、気鋭の法社会学者による刺激的な問題提起である。

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初出メディア

朝日新聞

朝日新聞 2004年10月24日

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