書評

『あのこは貴族』(集英社)

  • 2018/06/04
あのこは貴族 / 山内 マリコ
あのこは貴族
  • 著者:山内 マリコ
  • 出版社:集英社
  • 装丁:単行本(288ページ)
  • 発売日:2016-11-25
  • ISBN-10:4087710173
  • ISBN-13:978-4087710175
内容紹介:
東京生まれのお嬢様・華子と、地方生まれのOL・美紀。出会うはずのなかった女二人が同じ男をきっかけに巡り合って──。東京の「上流階級」を舞台に、結婚の葛藤と解放を描く、渾身の長編小説。


東京生まれの箱入り娘と地方出身の根無し草。「階級社会」というこの国の一面を描く小説

東京都渋谷区の高級住宅街に住む榛原(はいばら)華子は、自分の狭い世界からほとんど足を踏み出すことなく育ってきた。家族は、彼女が勤めを辞めたことを喜ぶような人々だ。良縁を得て結婚することが女性にとって最大の幸福と信じられているからである。しかし、華子は焦っていた。二十代後半になったというのに出会いがまだ無いからである。意を決して婚活を始めた華子だったが、彼女の属する世界の外からやってきた男性は、あまりにも理想からかけ離れていた。

山内マリコの最新長篇『あのこは貴族』は、世間知らずの華子の奮闘を、突き放したような笑いを交えつつ描く第一章「東京」から始まる。続く第二章「外部」の主人公は、地方から慶應義塾大学に進学するため上京してきた時岡美紀だ。視点が変わり東京という世界が外から描かれる。自分たちだけで固まってそれ以外の者を拒んでいるように見える慶應の内部生(幼稚舎からの入学組)はその象徴だ。東京の街は美紀にとってはひたすら生きにくいものである。水商売に足を踏み入れるほどに美紀は生活苦を体験するが、それでも元いた地方には戻れない。故郷には何もないからだ。

自分に縋(すが)るべき根が無いことに怯える美紀と根を生やした場所から出られない華子の姿を対照的に描きつつ、作者は第三章で二人を意外な形で邂逅させる。この対立図式の意味はそこで明かされるのである。――ああ、日本は格差社会なんじゃなくて、昔からずっと変わらず、階級社会だったんだ。

登場人物の一人がそんなことを思う場面がある。初期の山内が発表していたのは、地方で生まれたという運命を背負った若者たちを主役とする作品だった。ここで言う格差、階級も地方と東京のそれかと思わせておいて、巧妙にずらしてみせる。現代の日本に厳然として存在する、始末に負えない階級の正体を明らかにして小説は終わるのだ。現実に負けず、立ち向かいつつ生きようとする登場人物たちの姿が描かれる終章を読み、救われる思いがした。負けるな。
あのこは貴族 / 山内 マリコ
あのこは貴族
  • 著者:山内 マリコ
  • 出版社:集英社
  • 装丁:単行本(288ページ)
  • 発売日:2016-11-25
  • ISBN-10:4087710173
  • ISBN-13:978-4087710175
内容紹介:
東京生まれのお嬢様・華子と、地方生まれのOL・美紀。出会うはずのなかった女二人が同じ男をきっかけに巡り合って──。東京の「上流階級」を舞台に、結婚の葛藤と解放を描く、渾身の長編小説。


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初出メディア

週刊現代

週刊現代 2016年12月10日号

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