書評
『Get back,SUB!』(本の雑誌社)
サブカルチャーの源への旅
「ヒッピー・ラディカル・エレガンス」。古本屋で偶然出会った雑誌に記された三つの言葉が、すべてのはじまりだった。これは1970年代初頭に神戸で発行されていた伝説のインディペンデント雑誌、「季刊サブ」創刊号の特集に掲げられた言葉だ。その編集長だった小島素治は、ビートルズに衝撃を受けた当時の若者の一人。ヒッピーとラディカルのあとに「エレガンス」の一語を添え、創刊号で〈花と革命〉という特集を組む彼に、著者は共振する。時代を超えて、自分とよく似た魂を発見してしまったのだ。優れたノンフィクション作品を成り立たせるのに必要な衝動を得て、途絶えたままの氏の消息を追う長い旅が始まる。
インターネット上の書き込みで、小島氏が京都の拘置所にいることが明らかになる。刑事裁判での有罪判決、がんの発症、入院という予想外の展開を経て、著者はようやく小島氏と対面を果たす。だがインタビュー取材の直後に、氏は急逝してしまう。ここまでは本書のイントロダクションにすぎない。
無名の若者がなぜ、独力であれほどソフィスティケートされた雑誌を生み出せたのか。当時はどんな時代の風が神戸の街に吹いていたのか。雑誌休刊後、彼はいったいどのような人生を歩んだのか―こうした問いに答えてくれる多くの証言者によって、小島素治の人物像は次第に鮮明になる。でもこの本の「旅」は、まだ終わらない。
いつの頃からか「サブカルチャー」と呼ばれるようになった文化やライフスタイルがある。本書の真のテーマは、70年代の時代精神とでもいうべき、サブカルチャーの淵源をさぐることだ。「季刊サブ」は、著者を行き着くべきところへたどり着かせた、導きの糸だった。「旅」の終わりに著者が行き着いた場所はどこか。それを知りたければ、あなたもぜひこの長い旅に出てみてほしい。
初出メディア

共同通信社 2011年12月8日
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