書評

『めぐりあうものたちの群像―戦後日本の米軍基地と音楽 1945‐1958』(大月書店)

  • 2018/12/14
めぐりあうものたちの群像―戦後日本の米軍基地と音楽 1945‐1958 / 青木 深
めぐりあうものたちの群像―戦後日本の米軍基地と音楽 1945‐1958
  • 著者:青木 深
  • 出版社:大月書店
  • 装丁:単行本(606ページ)
  • 発売日:2013-03-01
  • ISBN:4272520865
内容紹介:
第35回サントリー学芸賞受賞!日本経済新聞(2013.5.12)ほか、各紙誌で絶賛!1945年8月28日、米陸軍第11空挺師団の先遣隊が神奈川県厚木飛行場に到着し、日本「本土」占領は始まった。以来、全国各地に米軍関係施設が置かれ、地上戦闘部隊が「本土」から撤退する1958年まで、数百万規模の将兵たちが来日… もっと読む
第35回サントリー学芸賞受賞!日本経済新聞(2013.5.12)ほか、各紙誌で絶賛!1945年8月28日、米陸軍第11空挺師団の先遣隊が神奈川県厚木飛行場に到着し、日本「本土」占領は始まった。以来、全国各地に米軍関係施設が置かれ、地上戦闘部隊が「本土」から撤退する1958年まで、数百万規模の将兵たちが来日することになる。著者はこれまで見過ごされてきた米軍将兵の滞日経験、とりわけ音楽におけるそれに注目し、精力的なインタビュー調査(日本の音楽・芸能関係者と米軍退役者、計150名以上)および文献調査(同時代の新聞、雑誌、写真、地図、回想録などの関係諸資料)をおこなった。当時の貴重な写真ほか100点を超える図版も収録。鶴見良行『ナマコの眼』、山口昌男「『敗者』三部作」の手法を継承し発展させた独自の「連鎖的記述」から浮かび上がる、無数の生きられた時間/瞬間。12年の歳月をかけて結実した画期的な戦後史/ポピュラー音楽研究にして、瞠目すべき記録文学の誕生。

占領期日本の駐留米兵と音楽

言うまでもなく歴史とは人々が生きて交わってきた無数の瞬間の痕跡であり、それぞれの瞬間は漏れなく現在に結びついている。言い換えればそういった瞬間瞬間の積み重なりが「幅と厚み」(石子順造)をもって現在に接しているものが歴史であり、ある瞬間にそこにいた人々の、土地や場所や建物などとの関係も含めた息吹や記憶、次の瞬間には別の土地や場所へ移動したかもしれない人々の縁や軌跡などまで記述されてはじめて、歴史は冷たく固着されたものであることをやめ、現在と交錯しうるものになるはずだ。

だがこれは言うは易しというもので、3次元以上あるその幅と厚みを、2次元かつ線形的であることを本質的に免れない書物というメディアで再現あるいは表象することは原理的に不可能である。

本書の最大の特徴は、無茶(むちゃ)と承知しながらその不可能性に真っ向から取り組んだところにある。

具体的にはこの本は、GHQ占領下、日本各地に設けられた基地や接収施設、その周辺の歓楽街などで鳴った音楽と人々との関わりを対象としている。つまり進駐軍クラブと音楽が主題だ。

ただし既存の研究とは大きく異なる点があり、それが第二の特徴なのだが、日本に駐留した米軍将兵に焦点が当てられているのだ。著者は言う。占領期について様々な研究がなされてきたが「戦後に来日した米軍将兵に関しては、名前と顔の見えない画一的な像しか提供されていない」、だからその欠落を埋めたのだと。

むろん資料はほとんどない。内外の文献を渉猟した上で著者は、日本各地はもとよりアメリカへも何度も足を運び、邦人の関係者および在日経験のある元兵士たち約150人から彼らの「瞬間」を聞き出すという実に遠大な作業をこなし、2段組で5百頁(ページ)超の本文、11の挿話や解説、4百近い注釈により「個々の時間/瞬間」の絡み合う連なりを描き出した。

ときに著者の人生さえも交差する手法については、その特異さゆえに時の評価を待たねばならないだろうが、このやり方でしかなしえなかった達成は数え切れない。巨大で偉大な仕事である。
めぐりあうものたちの群像―戦後日本の米軍基地と音楽 1945‐1958 / 青木 深
めぐりあうものたちの群像―戦後日本の米軍基地と音楽 1945‐1958
  • 著者:青木 深
  • 出版社:大月書店
  • 装丁:単行本(606ページ)
  • 発売日:2013-03-01
  • ISBN:4272520865
内容紹介:
第35回サントリー学芸賞受賞!日本経済新聞(2013.5.12)ほか、各紙誌で絶賛!1945年8月28日、米陸軍第11空挺師団の先遣隊が神奈川県厚木飛行場に到着し、日本「本土」占領は始まった。以来、全国各地に米軍関係施設が置かれ、地上戦闘部隊が「本土」から撤退する1958年まで、数百万規模の将兵たちが来日… もっと読む
第35回サントリー学芸賞受賞!日本経済新聞(2013.5.12)ほか、各紙誌で絶賛!1945年8月28日、米陸軍第11空挺師団の先遣隊が神奈川県厚木飛行場に到着し、日本「本土」占領は始まった。以来、全国各地に米軍関係施設が置かれ、地上戦闘部隊が「本土」から撤退する1958年まで、数百万規模の将兵たちが来日することになる。著者はこれまで見過ごされてきた米軍将兵の滞日経験、とりわけ音楽におけるそれに注目し、精力的なインタビュー調査(日本の音楽・芸能関係者と米軍退役者、計150名以上)および文献調査(同時代の新聞、雑誌、写真、地図、回想録などの関係諸資料)をおこなった。当時の貴重な写真ほか100点を超える図版も収録。鶴見良行『ナマコの眼』、山口昌男「『敗者』三部作」の手法を継承し発展させた独自の「連鎖的記述」から浮かび上がる、無数の生きられた時間/瞬間。12年の歳月をかけて結実した画期的な戦後史/ポピュラー音楽研究にして、瞠目すべき記録文学の誕生。

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

初出メディア

日本経済新聞

日本経済新聞 2013年5月12日

関連記事
栗原 裕一郎の書評/解説/選評
ページトップへ