書評

『Haruki Murakamiを読んでいるときに我々が読んでいる者たち』(みすず書房)

  • 2018/12/30
Haruki Murakamiを読んでいるときに我々が読んでいる者たち / 辛島 デイヴィッド
Haruki Murakamiを読んでいるときに我々が読んでいる者たち
  • 著者:辛島 デイヴィッド
  • 出版社:みすず書房
  • 装丁:単行本(384ページ)
  • 発売日:2018-09-11
  • ISBN:4622087006
内容紹介:
村上春樹の英語圏での成功の舞台裏を、編集者、翻訳家、エージェント…など携わった様々な人々、村上本人へのインタビューを軸に描く

「春樹」から「ハルキ」へ

日本国内の英語学習のために英訳された村上春樹の初期作品が、ニューヨークの編集者の目に留まっていた。そして日本での『ノルウェイの森』の大ヒット。これらを足がかりに、ニューヨークにある講談社インターナショナルでは、『羊をめぐる冒険』でアメリカに打って出るマーケティングが開始される。

日本文学というアカデミックな扱いではなく、村上春樹をハルキ・ムラカミという同時代を生きる作家として英語圏に売り込むのである。

ただアメリカで日本の文学作品を出版するには、いくつものハードルがあった。受け入れられるためには本質を生かしたまま作品を再構成する大胆な翻訳、翻案、編集カットが必要だ。その光景を翻訳家や編集者の語りや生き様を通して浮き彫りにしているのが本書のキモである。『ねじまき鳥クロニクル』で世界的な作家として地位を得るまでは、山あり谷あり。レイモンド・カーヴァ―をめぐる縁から、老舗雑誌の『ニューヨーカー』や大手出版社の名物編集者、有力エージェントと邂逅する過程はちょっとしたドラマである。

春樹がハルキになっていく裏事情は日本の読者としてなんだか誇らしい。村上に直接インタビューして得た返答を、随所にちりばめているのもファンには堪らない。関係者間の記憶に齟齬があるのは、春樹作品のパラレルワールドそのままである。

エンタメ的スピード感と文学的奥深さを合わせ持ち、文字表現の妙、既視感の中に潜む寂寥など、非日本的なところが村上作品の重要な魅力であれば、英語圏の読者が村上を発見していくさまは必然ともいえる。だがその過程にはたくさんの人と才能が関わっていた。

カーヴァ―の短編を捩(もじ)ったタイトルにあるように、ハルキ・ムラカミを読むということは、作品を英語圏に受け入れられるように奔走した人々を「読む」ことでもある。

[書き手]服部文祥(はっとり・ぶんしょう 登山家・作家)
Haruki Murakamiを読んでいるときに我々が読んでいる者たち / 辛島 デイヴィッド
Haruki Murakamiを読んでいるときに我々が読んでいる者たち
  • 著者:辛島 デイヴィッド
  • 出版社:みすず書房
  • 装丁:単行本(384ページ)
  • 発売日:2018-09-11
  • ISBN:4622087006
内容紹介:
村上春樹の英語圏での成功の舞台裏を、編集者、翻訳家、エージェント…など携わった様々な人々、村上本人へのインタビューを軸に描く

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