書評

『社会制作の方法: 社会は社会を創る、でもいかにして?』(勁草書房)

  • 2019/01/19
社会制作の方法: 社会は社会を創る、でもいかにして? / 北田 暁大
社会制作の方法: 社会は社会を創る、でもいかにして?
  • 著者:北田 暁大
  • 出版社:勁草書房
  • 装丁:単行本(360ページ)
  • 発売日:2018-11-09
  • ISBN:4326654155
内容紹介:
「社会秩序はいかにして可能か」をめぐるhowの問いとwhatの問い。この社会学の根本をめぐる問題をあらためて問い直す。

構築主義のモチーフを再構成

北田暁大(あさひろ)氏は、社会学の理論「構築主義」を正面から論じている。力のこもった一冊だ。

構築主義といっても、馴染(なじ)みがない読者もいよう。本書は論文集なので、細かい論点は追わず、考えの大筋を紹介する。

構築主義はまず世界を、人間に作られたもの(社会)/作られないもの(自然)に分ける。たとえば男女の体のつくり(セックス)は後者だが、男女のあり方(ジェンダー)は前者だ。作られたものなら、時代や文化によって変わるし、変えられる。だから現状を批判できる。

人間が作っているとしても、自覚できるとは限らない。ここが、マルクス主義と似ている。市場経済や階級の存在は自然にみえるが、歴史が作ったもの。それを自覚して階級闘争に立ち上がれば、共産主義を実現できる。構築主義も、社会がどう作られたのかを理解し、不都合なら作り替えようと考える。まさしく社会学的な発想である。

構築主義の反対が、本質主義である。たとえば女性が女性らしいのは本質で、作られたのでないとする。それに対して、本質(あるがまま)とみえても作られたものだ、と暴露するのに熱心な構築主義もある。北田氏はそんな《暴露的啓蒙(けいもう)》とは距離を置き、《「秩序の学」としての社会学という原点に立ち戻り、理論的な構想力においてたどり着きうる秩序の条件を描き出すことを目指す》。現にある社会が実際どのように構築されたかの、《経験的な調査可能性を重視》するのである。

構築主義は、さまざまな議論と関連が深い。ウエーバーの理解社会学、パーソンズの理論、ラベリング理論、発話行為論、ルーマンの社会システム論、カント哲学、ローティのプラグマティズム、ヴィトゲンシュタインやサールの言語哲学、フェミニズム、フーコーの権力論、…など。本書の各章は、それらを順に整理し論じていく。

構築主義の議論はなかなか複雑だ。たとえば「存在論的ごまかし」。ある時期からセクハラが言われはじめ、定着した。その前、セクハラという言葉もない時期に、セクハラにあたる事態はあったのか。あったと考えると、セクハラは構築されたのでなくて、実在していたことになる。これはまずい。

この問題は悩ましい。何かが構築されたと言えるためには、構築される前/された後、を記述できなければならない。記述には、構築されたのではない言葉が必要だ。だがその言葉が、構築されたのではない保証はどこにあるのか。構築主義の研究を進める社会学者の言葉のセットはどう構築されたのか。「すべてが構築された」と主張するから生まれるパラドックスだ。これがどう解決されるのか、なかなか興味ぶかいところだ。

構築主義は、社会学がここ数十年、盛んに議論してきたトピックだ。本書を読むと、若い世代の社会学者はこんな窮屈な場所に追い込まれてしまったのかと気の毒になる。参照されるのは、限られた社会学の文献がほとんど。政治や経済や宗教や、社会科学全般への目配りがあまりないまま、議論がぐるぐる回っている。かつて、「機能」を合い言葉に、社会学が数十年を無駄にした時期があった。「構築」も似たようなことにならないかと、心配になる。

とはいえ、今の時代、多くの社会学者が構築主義に惹(ひ)かれているのには、理由がある。この閉塞(へいそく)が、なかなか自覚しにくい同時代の人びとの思い込みでうみだされているのだと、根拠をあげて論証したいのだ。本書はそうした構築主義のモチーフを一貫した立場として再構成している。貴重な業績である。著者の力業に敬意を表する。
社会制作の方法: 社会は社会を創る、でもいかにして? / 北田 暁大
社会制作の方法: 社会は社会を創る、でもいかにして?
  • 著者:北田 暁大
  • 出版社:勁草書房
  • 装丁:単行本(360ページ)
  • 発売日:2018-11-09
  • ISBN:4326654155
内容紹介:
「社会秩序はいかにして可能か」をめぐるhowの問いとwhatの問い。この社会学の根本をめぐる問題をあらためて問い直す。

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初出メディア

毎日新聞

毎日新聞 2019年1月6日

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