書評

『ラ・ロシュフーコー公爵傳説』(集英社)

  • 2017/07/03
ラ・ロシュフーコー公爵傳説 / 堀田 善衛
ラ・ロシュフーコー公爵傳説
  • 著者:堀田 善衛
  • 出版社:集英社
  • 装丁:単行本(464ページ)
  • ISBN-10:408774325X
  • ISBN-13:978-4087743258
内容紹介:
17世紀フランスのモラリストの生涯と思想。17世紀、争乱のフランス。屈指の名門貴族に生まれ、武人として戦闘と恋愛と陰謀と失意に明け暮れたフランソア・ド・ラ・ロシュフーコー。戦いと陰謀の渦より身を引き、文人として稀有の才を発揮する後半生。「二ツ折りの紙」のように折り重なったラ・ロシュフーコーの波瀾に富んだ生涯を、文明と歴史の変容を見すえつつ、練達の筆が追う。

陰謀と裏切りを語る

”利己的な遺伝子(セルフィッシュ・ジーン)”という言葉が流行し、定着した。二十世紀も末になって登場した科学用語である。十七世紀のラ・ロシュフーコー公爵は、自己愛(アムール・プ ロプル)を人間研究の中心に据えた。陰謀と裏切りが渦巻くフランス宮廷に生きた公爵の自然な選択だ。家系図が十世紀まで鮮明にたどれる大貴族である。ルイ十三世以降の中央集権路線とは、ぶつからさるをえなかった。ルイ十三世と宰相リシュリュウ、ルイ十四世と摂政アンヌ・ドートリッシュ、宰相マザラン、そのすべてと公爵は対立し た。

反王権のフロンドの乱にはとくに深入りし、顔に重傷を負って、あやうく失明するところだった。(アンヌ・ドートリッシュは不遇時代には公爵に頼りきって いたのに、摂政になったとたん、てのひらを返した)。

粛清されずにすんだのが不思議なくらいである。公爵はともかくも宮廷に復帰し、サブレ侯爵夫人らの文芸サロンに出入りして文筆の人となっていった。「回想録」も世に出しているが、彼の名を不朽にしたのはやはり「箴言(しんげん)集」 だろう。

「太陽も死もじっと見詰めることはできない」ージョルジュ・バタイユが好んで引用するこの一句などは、すでに永遠の相を獲得している。

「何人も悪意の人となりうる強さを持たない限り、善良さを称えられるに値しない。それ以外のあらゆる善良さは、殆どつねに怠惰か、さもなければ意志の無力にすぎない」ーこうしたたぐいの明察に満ちた辛口の一巻だ。

堀田氏はこの公爵に、一人称で家系の物語とフランス歴代王家の裏面史を語らせ、やがて”自分史”を語らせた。単調になるのを嫌って、ときどき三人称に切り替えてあるが、公爵の内面に入り込む手法は一貫している。その上で、ころ合いをはかりながらつぎつぎに適切な箴言を引用して話を進めている。読み手を飽きさせない妙手というべき だろう。 

【新版】
ラ・ロシュフーコー公爵傳説  / 堀田 善衛
ラ・ロシュフーコー公爵傳説
  • 著者:堀田 善衛
  • 出版社:集英社
  • 装丁:文庫(553ページ)
  • 発売日:2005-11-18
  • ISBN-10:4087478866
  • ISBN-13:978-4087478860
内容紹介:
「太陽も死もじっと見詰めることは出来ない」(『マキシム』)17世紀のモラリスト、ラ・ロシュフーコー。深く鋭いシニカルな人間洞察から生まれたその著書、『マキシム(箴言集)』は、今日まで広く読み継がれている。争乱の世紀に名門貴族として生まれ、戦闘と陰謀と恋愛に明け暮れた彼が、なぜ厭世的な思想を持つにいたったか?波乱の生涯を、文明と歴史を軸に描く評伝小説。

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

ラ・ロシュフーコー公爵傳説 / 堀田 善衛
ラ・ロシュフーコー公爵傳説
  • 著者:堀田 善衛
  • 出版社:集英社
  • 装丁:単行本(464ページ)
  • ISBN-10:408774325X
  • ISBN-13:978-4087743258
内容紹介:
17世紀フランスのモラリストの生涯と思想。17世紀、争乱のフランス。屈指の名門貴族に生まれ、武人として戦闘と恋愛と陰謀と失意に明け暮れたフランソア・ド・ラ・ロシュフーコー。戦いと陰謀の渦より身を引き、文人として稀有の才を発揮する後半生。「二ツ折りの紙」のように折り重なったラ・ロシュフーコーの波瀾に富んだ生涯を、文明と歴史の変容を見すえつつ、練達の筆が追う。

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初出メディア

山形新聞

山形新聞 1998年6月1日

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