書評

『私の恋人』(新潮社)

  • 2019/03/09
私の恋人 / 上田 岳弘
私の恋人
  • 著者:上田 岳弘
  • 出版社:新潮社
  • 装丁:文庫(147ページ)
  • 発売日:2018-01-27
  • ISBN-10:4101212619
  • ISBN-13:978-4101212616
内容紹介:
一人目は恐るべき正確さで世界の未来図を洞窟の壁に刻んだクロマニョン人。二人目は大戦中、収容所で絶命したユダヤ人。いずれも理想の女性を胸に描きつつ34年で終えた生を引き継いで、平成日… もっと読む
一人目は恐るべき正確さで世界の未来図を洞窟の壁に刻んだクロマニョン人。二人目は大戦中、収容所で絶命したユダヤ人。いずれも理想の女性を胸に描きつつ34年で終えた生を引き継いで、平成日本を生きる三人目の私、井上由祐は35歳を過ぎた今、美貌のキャロライン・ホプキンスに出会う。この女が愛おしい私の恋人なのだろうか。10万年の時空を超えて動き出す空前の恋物語。三島賞受賞作。

ミクロとマクロの二重螺旋

近年、科学的分析技術の向上により、なぜ現生人類が生き延び、ネアンデルタール人が滅びたのか、人類はどのように拡散し、交雑したのかが明らかになってきた。ここ数万年間には、気候の変動や破局的な火山噴火、飢饉(ききん)や部族間戦争があり、淘汰(とうた)が繰り返されてきた。人類史は種としての人間の営みを考察するが、人類史の末端にいる私たちは個の営みに一喜一憂している。宇宙や人類史のマクロ的視点に立てば、ヒトは自(おの)ずと気宇壮大になるが、我に返れば、金銭のトラブルや人間関係のもつれなどせこい現実が待っている。しょせん、自分はDNAに宿を貸しているだけで、繁栄するにせよ、滅亡するにせよ、天命に従うだけだと達観するのが関の山である。上田岳弘はかつてシャーマンや詩人がそうしたように、自身が受け継いだDNAを語り手にして、淘汰の無常をぼやきつつ、恋人に尽くすのである。折々の自画像はミクロとマクロ、主観と客観が二重螺旋(らせん)をなしている。
私の恋人 / 上田 岳弘
私の恋人
  • 著者:上田 岳弘
  • 出版社:新潮社
  • 装丁:文庫(147ページ)
  • 発売日:2018-01-27
  • ISBN-10:4101212619
  • ISBN-13:978-4101212616
内容紹介:
一人目は恐るべき正確さで世界の未来図を洞窟の壁に刻んだクロマニョン人。二人目は大戦中、収容所で絶命したユダヤ人。いずれも理想の女性を胸に描きつつ34年で終えた生を引き継いで、平成日… もっと読む
一人目は恐るべき正確さで世界の未来図を洞窟の壁に刻んだクロマニョン人。二人目は大戦中、収容所で絶命したユダヤ人。いずれも理想の女性を胸に描きつつ34年で終えた生を引き継いで、平成日本を生きる三人目の私、井上由祐は35歳を過ぎた今、美貌のキャロライン・ホプキンスに出会う。この女が愛おしい私の恋人なのだろうか。10万年の時空を超えて動き出す空前の恋物語。三島賞受賞作。

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初出メディア

朝日新聞

朝日新聞 2015年9月6日

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