書評

『星を継ぐもの』(東京創元社)

  • 2017/07/05
星を継ぐもの  / ジェイムズ・P.ホーガン
星を継ぐもの
  • 著者:ジェイムズ・P.ホーガン
  • 翻訳:池 央耿
  • 出版社:東京創元社
  • 装丁:文庫(309ページ)
  • 発売日:1980-05-23
  • ISBN-10:448866301X
  • ISBN-13:978-4488663018
内容紹介:
月面調査員が真紅の宇宙服をまとった死体を発見した。綿密な調査の結果、この死体は何と死後五万年を経過していることがわかった。果たして現生人類とのつながりはいかなるものなのか。やがて木星の衛星ガニメデで地球のものではない宇宙船の残骸が発見された……。ハードSFの新星が一世を風靡した出世作。

空想科学本格推理小説

今月は、ちょっと毛色の変わった謎解き小説を取りあげてみたい。いや、実をいうと、ちょっとどころか大いに変わった代物で、サイエンス・フィクションである。

今年の五月に創元推理文庫で刊行された、ジェイムズ・P・ホーガンの『星を継ぐもの』(一九七七)という長篇。

なんだSFか、と顔をしかめられると困るのだけれど、これ、本格ミステリの快作です。”ミステリとして読んでも楽しめる作品”という程度のものではなく、本格推理小説そのものなのである。SFファンは異論があるだろうが、わたしは、そういいきっていいと考えている。

内容を云々するまえに、わたし自身のSF体験について簡単に述べておこう。SFを知りもしないくせにきいた風なことをぬかすな、などといわれてはたまらないからだ。

中学から高校にかけての一時期、わたしは熱烈なSFファンだったことがある。

自慢じゃないが、昭和三十八年から四十年までの三年間に《SFマガジン》に掲載された小説、エッセイ、コラムは、ことごとく読んでいる。毎月、発売と同時に本屋さんへ買いに行き、隅から隅まで読んだ。エドモンド・ハミルトンの『時果つるところ』、アイザック・アシモフの『夜来る』、ロパート・A・ハインラインの『大宇宙』、マレイ・ラインスター『最初の接触』、ルイス・バジェット『次元ロッカー』、といった作品に夢中になった。

夜来たる  / アイザック アシモフ
夜来たる
  • 著者:アイザック アシモフ
  • 翻訳:美濃 透
  • 出版社:早川書房
  • 装丁:文庫(324ページ)
  • ISBN-10:4150106924
  • ISBN-13:978-4150106928
内容紹介:
2千年に1度の夜が訪れたとき、人々はどう反応するだろうか…六つの太陽に囲まれた惑星ラガッシュを舞台に、"夜"の到来がもたらすさまざまな人間模様を描き、アシモフの短篇のなかでもベストの評価をかち得た、SF史上に名高い表題作はじめバリエーション豊かな短篇の数々を、著者の軽妙な詞書きにのせて贈る、アシモフの面目躍如たる傑作短篇集!

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伊藤典夫氏の『マガジン捜査線』や『SFスキャナー』にしびれ、まねをして、未訳のSFペーパーパックや《アナログ》《ファンタスティック》といった雑誌を買い集めたこともある。ハヤカワSFシリーズも百冊以上持っているし、現在では古書店で眼ン玉が飛び出るほどの値段がついている《SFマガジン》創刊号だって、ちゃんと所蔵いたしておる。かの有名なSF大会TOKONに、一人でのこのこ出かけたことすらある。

つまりは、ファンだったということだろう。それがどうしてそうでなくなってしまったのかは、よくわからない。J・G・バラードやブライアン・オールディスが台頭してきて、ニュー・ウェーヴだ、スペキュレイティヴ・フィクションだ、イナー・スペースだとやりだしたあたりから、読書欲を喪失してしまったようだ。

それでもまあ、たまに、わたしの好みにあいそうな新刊SFを見かけると、読んでやろうという気分にはなる。この『星を継ぐもの』は、そういう気分を起こさせてくれる作品だった。なんとはなしに買ったのだが、読みはじめてびっくりしてしまったのである。

舞台は二十一世紀の未来。月面調査隊が、洞窟の中から真紅の宇宙服をまとった死体を発見する。体形も骨格も現代人に瓜二つ、どう見ても地球人である。が、調査の結果は驚くべきものだった。死体は五万年以上も前のものであることが判明したのだ。

進化論を根底からくつがえすほどのこの事実から、多くの疑問が生まれてくる。人類は、五万年前に、現在と同等の科学文明を誇っていたのではないか? しかし、だとすれば、地球上にその形跡がまるで発見されないのはなぜなのか?

それとも、この死体は別の世界から来た生物なのか? これは考えにくい。条件の異なる二つの惑星で進化した生物が、まったく同じ形態をとることはありえないからだ。

が、やがて、死体の故郷が地球ではないことを示す確固とした証拠が出現、次のような推論が導きだされる。今から五万年以上も前、火星と木星の間に、一つの惑星が存在した。ミネルヴァと名づけられたこの星には、宇宙旅行をし、月に基地を作るほどの科学力を持った人類が住んでいた。しかし、核戦争のはてに彼らは滅亡し、ミネルヴァは爆発して、現在、小惑星帯と呼ばれる無数の星くずと化したのである、というものだ。

ところが、そこでまたしても大矛盾が生まれてくる。死体と共に発見された日記めいたものを解読したところ、どう解釈しても、ミネルヴァは地球である、という結論になってしまうのだ。この事実は何を意味するのか?ミネルヴァ人は地球人の祖先なのだろうか?それならば、月に基地を作るほどの科学力を誇っていた彼らの文明の痕跡が、なぜ地球上にまったく残っていないのか?

謎また謎、である。だが、すごいのはこのあとで、これだけ錯綜した謎が、まことに単純明解に、論理的に解き明かされ、しかもすばらしい意外性に満ちている。不可解な謎の提出、中段のサスペンス、論理による謎解きと結末の意外性。こういう種類の小説を、ぼくらは本格推理小説と呼んでいるのではあるまいか。

細かく検討してみれば、それはいよいよはっきりする。“あまりにも他愛のないことであるために、誰もが自分で犯していることに気付かぬ誤(あやま)り”を発見して謎を解く主人公の原子物理学者は、名探偵である。彼と対決したり協調したりする生物学者は、ワトスン役である。木星への探査飛行は、アリバイ捜査。ミネルヴァ語の解読は、むろん暗号解読。そして、この巨大な謎の背後にあるのは、本格、ミステリにおいてもっとも有名な、あるトリックなのだ。ただ、それが途方もないスケールで使われているので、一見、そうとは気づかぬだけのことである。

むろん、この小説が、優れたSFであることはまちがいない。最後の一ページが、鮮やかにそれを示している。解説で鏡明氏が”A・C・クラークの『太陽系最後の日』の読後感に似ている”と述べているが、まったく同感で、壮大な時間的広がりを見せて終わるこのラスト、感動的である。

太陽系最後の日   / アーサー・C・クラーク
太陽系最後の日
  • 著者:アーサー・C・クラーク
  • 出版社:早川書房
  • 装丁:文庫(512ページ)
  • 発売日:2009-05-30
  • ISBN-10:4150117136
  • ISBN-13:978-4150117139

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しかし、優れたSFであることと、優れた本格ミステリであることとは、少しも矛盾しない。この二つは、まるで尺度の異なるジャンルなのだから。

『星を継ぐもの』を読み終えたあとに、わたしがまず感じたのは、こういう手法で本格ミステリを開拓してゆけば、とても斬新な作品が生まれてくるのではないか、ということだ。SFやファンタジイの確固としたルールにのっとって、論理的な謎解き小説を書くのである。過去にも、その種の作品はあった。アシモフの『鋼鉄都市』や『はだかの太陽』、ランドル・ギャレットの『魔術師が多すぎる』。短篇でも、よく見かける。しかし、単発的なものが多く、それを作風として書き続けた作家はいない。

鋼鉄都市  / アイザック・アシモフ
鋼鉄都市
  • 著者:アイザック・アシモフ
  • 翻訳:福島 正実
  • 出版社:早川書房
  • 装丁:文庫(358ページ)
  • ISBN-10:4150103364
  • ISBN-13:978-4150103361

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はだかの太陽〔新訳版〕   / アイザック・アシモフ
はだかの太陽〔新訳版〕
  • 著者:アイザック・アシモフ
  • 翻訳:小尾 芙佐
  • 出版社:早川書房
  • 装丁:文庫(416ページ)
  • 発売日:2015-05-08
  • ISBN-10:4150120072
  • ISBN-13:978-4150120078
内容紹介:
地球の人類は鋼鉄都市と呼ばれるドームのなかで、人口過密に悩まされながら生きていた。一方、宇宙へ進出し、繁栄を謳歌している人類の子孫、スペーサーたちは各植民惑星に宇宙国家を築き、地球を支配下においている。数カ月前にロボット刑事ダニールとともにスペーサー殺人事件を解決したニューヨーク市警の刑事ベイリは、宇宙国家のひとつ、ソラリアで起きた殺人事件の捜査を命じられたが…『鋼鉄都市』続篇の新訳版。

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魔術師が多すぎる  / ランドル・ギャレット
魔術師が多すぎる
  • 著者:ランドル・ギャレット
  • 出版社:早川書房
  • 装丁:文庫(347ページ)
  • ISBN-10:4150727511
  • ISBN-13:978-4150727512

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空想科学本格推理作家。そう呼ぶことのできる異色の才能が、そろそろ出現してもいいような気がする。

〈付記〉
ジェイムズ・P・ホーガンは、その後、『ガニメデの優しい巨人』(一九七八)『創世記機械』(一九七八)『未来の二つの顔』(一九七九)『未来からのホットライン』(一九八〇)『断絶への航海』(一九八二)『造物主の掟』(一九八三)などのハードSF話題作を次々に発表、今やSF界の一方の旗頭といってもいいほどの人気を誇っている。

前記のうち、わたしが読んだのは、『星を継ぐもの』の続篇ともいうべき『ガニメデの優しい巨人』とコンピュータが進化する『未来の二つの顔』だけだが、ともに予想外におもしろかった。空想論理の構築というか、科学的庇理屈のこねまわしというか、どう見ても大ボラとしか見えない話を、もっともらしく見せかけようとする情熱には頭が下がる。『星を継ぐもの』は、そういう彼の情熱が、謎解きの興味とぴったり合致した傑作である。

ガニメデの優しい巨人  / ジェイムズ・P・ホーガン
ガニメデの優しい巨人
  • 著者:ジェイムズ・P・ホーガン
  • 翻訳:池 央耿
  • 出版社:東京創元社
  • 装丁:文庫(321ページ)
  • 発売日:1981-07-31
  • ISBN-10:4488663028
  • ISBN-13:978-4488663025

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創世記機械  / ジェイムズ・P・ホーガン
創世記機械
  • 著者:ジェイムズ・P・ホーガン
  • 出版社:東京創元社
  • 装丁:文庫(358ページ)
  • 発売日:1981-10-30
  • ISBN-10:4488663044
  • ISBN-13:978-4488663049

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未来の二つの顔  / ジェイムズ・P・ホーガン
未来の二つの顔
  • 著者:ジェイムズ・P・ホーガン
  • 翻訳:山高 昭
  • 出版社:東京創元社
  • 装丁:文庫(511ページ)
  • ISBN-10:4488663052
  • ISBN-13:978-4488663056

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未来からのホットライン  / ジェイムズ・P・ホーガン
未来からのホットライン
  • 著者:ジェイムズ・P・ホーガン
  • 翻訳:小隅 黎
  • 出版社:東京創元社
  • 装丁:文庫(439ページ)
  • ISBN-10:4488663060
  • ISBN-13:978-4488663063

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断絶への航海  / ジェイムズ・P. ホーガン
断絶への航海
  • 著者:ジェイムズ・P. ホーガン
  • 翻訳:小隅 黎
  • 出版社:早川書房
  • 装丁:文庫(572ページ)
  • 発売日:2005-02-01
  • ISBN-10:4150115044
  • ISBN-13:978-4150115043
内容紹介:
第三次世界大戦の傷もようやく癒えた2040年、アルファ・ケンタウリから通信が届いた。大戦直前に出発した移民船が植民に適した惑星を発見、豊富な資源を利用して理想郷建設に着手したというのだ。この朗報をうけが建造され、惑星ケイロンめざして旅立った。だが彼らを待っていたのは、地球とはあまりにも異質な社会だった…現代ハードSFの旗手がはなつ壮大なスペース・ドラマ。

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造物主の掟 ) / ジェイムズ・P・ホーガン
造物主の掟 )
  • 著者:ジェイムズ・P・ホーガン
  • 翻訳:小隅 黎
  • 出版社:東京創元社
  • 装丁:文庫(555ページ)
  • 発売日:1985-09-01
  • ISBN-10:4488663079
  • ISBN-13:978-4488663070

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【この書評が収録されている書籍】
夜明けの睡魔―海外ミステリの新しい波  / 瀬戸川 猛資
夜明けの睡魔―海外ミステリの新しい波
  • 著者:瀬戸川 猛資
  • 出版社:東京創元社
  • 装丁:文庫(357ページ)
  • 発売日:1999-05-01
  • ISBN-10:4488070280
  • ISBN-13:978-4488070281

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星を継ぐもの  / ジェイムズ・P.ホーガン
星を継ぐもの
  • 著者:ジェイムズ・P.ホーガン
  • 翻訳:池 央耿
  • 出版社:東京創元社
  • 装丁:文庫(309ページ)
  • 発売日:1980-05-23
  • ISBN-10:448866301X
  • ISBN-13:978-4488663018
内容紹介:
月面調査員が真紅の宇宙服をまとった死体を発見した。綿密な調査の結果、この死体は何と死後五万年を経過していることがわかった。果たして現生人類とのつながりはいかなるものなのか。やがて木星の衛星ガニメデで地球のものではない宇宙船の残骸が発見された……。ハードSFの新星が一世を風靡した出世作。

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