書評

『トリプルA 小説 格付会社 上』(幻冬舎)

  • 2020/08/14
トリプルA 小説 格付会社 上 / 黒木 亮
トリプルA 小説 格付会社 上
  • 著者:黒木 亮
  • 出版社:幻冬舎
  • 装丁:文庫(434ページ)
  • 発売日:2012-08-05
  • ISBN-10:4344419006
  • ISBN-13:978-4344419001
内容紹介:
「格付」の評価を巡り、単なる意見の表明に過ぎないとする格付会社と、それに反発する金融機関との間に軋轢が生じつつあったバブル期の日本。若き銀行マン・乾慎介、生保社員・沢野寛司、格付会社アナリスト・水野良子ら、それぞれの波乱に満ちた生きざまを通して、日本を揺るがした金融危機の実相と格付会社の興亡を、迫真の筆致で描く話題作。

金融危機の全貌を鳥瞰して描く

2008年に起こった金融危機の原因は多岐にわたっていた。『タイム』誌が発表した「金融危機を引き起こした25人」は、住宅ローン会社CEOやFRB議長をはじめとする“戦犯”をズラリと並べた記事だが、10位には、格付会社スタンダード&プアーズ社の女性社長が置かれていた(ALL REVIEWS事務局注:本書評執筆時期は2010年)。

格付会社とは、債権や企業などの信用リスクを評価しランキングする民間企業である。本作タイトルの「トリプルA」はもっとも高い格付けを意味する。

今回の金融危機は、高度な金融技術により組成されたCDO(債務担保証券)という証券化商品の連鎖的暴落が主因だった。サブプライムローンもその一種だ。

サブプライムローンは、銀行などが低所得者に貸した住宅ローンを投資銀行に売り、投資銀行が複数の債権を束ねて証券化し投資家に売るという仕組みの、みんながハッピーになる魔法のような技術のはずだったがご存じの通り破綻した。

債権を束ねるのはリスクを分散し低下させるためだが、数百とかの債権から成るCDOの見極めなどつくものではない。投資家は格付けを目安に投資をしていた。そして、本当なら投資不適格とされるべきCDOにまでトリプルAがつくような格付けがなされていたことが金融市場を極度に膨らませ、予想をはるかに越える規模の崩壊を呼び寄せたのである。つまり格付会社こそが金融危機の主犯だったともいえるわけだ。

本作は、米系格付会社が日本に進出してきた80年代から金融危機後までの日米経済を追った、事実をベースとした小説である。

主要登場人物は4人。邦銀行員から格付けアナリストに転身する乾慎介。米トップの格付会社マーシャルズを馘首(かくしゅ)され、二番手のS&Dにヘッドハントされるアナリスト水野良子。邦保険会社初の格付担当となる沢野寛司。マーシャルズ駐日代表として辣腕(らつわん)を振るう三条誠一郎だ。彼らのキャリアを通じて、格付けというものが日本の市場に食い込み影響力を持つようになっていく様が描写される。経歴と思惑を違える視点が四つ用意されたのは、格付けの正体に多角的に迫ろうとしたためだろう。

この設定はひとまず功を奏している。必要があって、サブプライム問題や金融危機を説く概説書にはそれなりに目を通したが、格付けに留まらず、今回の危機にいたる流れを立体的に描き出すという点において、本書は群を抜いてわかりやすく生き生きとしている。

反面、登場人物の絡み合いが物語に有機的に働いているかというとちょっと微妙である。新聞連載だったせいか、後半、解説に追われ物語が置き去り気味になるし、解説も金融危機に近づくほど駆け足になってしまう。上下2巻というボリュームでも四半世紀におよぶ日米の経済を小説として描き尽くすには足りなかったということだろう。

そうした疑問点は残るものの、高度に複雑化した金融業界の内幕を噛み砕き物語化した本書は、日米経済を鳥瞰し金融危機の全貌をつかむための力強いナビゲーターとなるはずである。
トリプルA 小説 格付会社 上 / 黒木 亮
トリプルA 小説 格付会社 上
  • 著者:黒木 亮
  • 出版社:幻冬舎
  • 装丁:文庫(434ページ)
  • 発売日:2012-08-05
  • ISBN-10:4344419006
  • ISBN-13:978-4344419001
内容紹介:
「格付」の評価を巡り、単なる意見の表明に過ぎないとする格付会社と、それに反発する金融機関との間に軋轢が生じつつあったバブル期の日本。若き銀行マン・乾慎介、生保社員・沢野寛司、格付会社アナリスト・水野良子ら、それぞれの波乱に満ちた生きざまを通して、日本を揺るがした金融危機の実相と格付会社の興亡を、迫真の筆致で描く話題作。

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初出メディア

サンデー毎日

サンデー毎日 2010年7月4日

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