書評
『ミッチー・ブーム』(文藝春秋)
大衆皇室制の誕生
『ミッチー・ブーム』を読む
一九五九年四月十日、今上天皇と皇后の結婚式が行われた。テレビ各社は総力をあげて結婚パレードを中継した。それから六年ほどたって、わたしに叔母が見合い話をもってきた。その口上がふるっていた。「美智子さんに似た美人よ」。
本書(石田あゆう『ミッチー・ブーム』文春新書、二〇〇六年)によれば、美智子さまは、ご婚約当時、週刊誌で次のように紹介されている。「身長162㎝、体重52㎏、バスト87、ウエスト61、ヒップ92㎝」の「コントラバス・スタイル」。見合いの相手女性を美智子さまに喩えることはもちろん、美智子「さん」とさんづけで呼んだことにミッチーブームがもたらした大衆皇室制のありかが端的に示されている。
本書は、美智子さまご婚約からご成婚、さらには雅子さまご成婚までにわたって、メディアの皇室描出を克明に掘り起こし、大衆が皇室をどのように消費したかについて論じている。
ミッチーブームの時代を生きた人でも、こんなこともあったのかと驚く事実が次々に明らかにされる。ご婚約発表後、衆議院内閣委員会で自民党議員がこんな質問を宮内庁長官にしている。「伝え聞くように、皇太子殿下が軽井沢のテニス・コートで見そめて、自分がいいというようなことを言うたならば、……これが果して民族の象徴と言い得るかどうか」。また皇太子妃決定発表の日には、ヒット歌謡曲『別れたっていいじゃないか』や『どうせひろった恋だもの』が自粛されたという話も知ることができる。
こんな事実も拾い上げながら、著者はミッチーブームを通じて皇室がファッションの面から消費されるようになったこと、そのことによって天皇制は大衆の関心を引きとめ、同時に象徴天皇制が存続したと指摘する。
しかし、本書が剔出する大衆の皇室消費とそれにともなうファッション天皇制は、あくまで女性中心のもの。男性にはなにをもたらしたのだろうか。ここらあたりも組み入れることが最近の皇位継承問題をめぐる大衆心理をさぐる鍵ともなる。そんなことも考えさせてくれる異色の戦後世論史。
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