後書き

『見ることは信じることではない:啓蒙主義の驚くべき感覚世界』(白水社)

  • 2019/06/05
見ることは信じることではない:啓蒙主義の驚くべき感覚世界 / キャロリン・パーネル
見ることは信じることではない:啓蒙主義の驚くべき感覚世界
  • 著者:キャロリン・パーネル
  • 翻訳:藤井 千絵
  • 出版社:白水社
  • 装丁:単行本(286ページ)
  • 発売日:2019-04-24
  • ISBN:4560096899
内容紹介:
天才をつくる食事、盲学校の設立、おならを芳香にする薬……啓蒙主義の時代、人々は身体感覚を通じて世界をどう捉えなおしたか。
「啓蒙主義」と聞いて、何を思い浮かべるでしょうか。理性重視の哲学の潮流で、有名な哲学者がわんさといる、といったところでしょうか。全国の高校で多く使われている山川出版社の「世界史B」の教科書によれば、「合理的な知を重んじて、社会の偏見を批判する立場はすでにルネサンス期にみられたが、科学革命を経て十八世紀には、いっそう大きな潮流となった。これを啓蒙思想と呼び、とくにフランスで有力であった」とあります。科学の発展に基づく、合理的な知の重視、というのが教科書的な理解と考えてよさそうです。

「理性の時代」と考えられがちな長い十八世紀(およそ一六九〇〜一八三〇年ごろ)を、本書では十章かけて「感覚」という切り口で論じています。原題Sensational Past のsensational は、「感覚の」「すばらしい」「煽情的な」という意をあわせもつ形容詞ですが、まさに本書にうってつけの言葉と言えます。各章は、視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚の五感いずれか、または、五感そのものをテーマとし、第1章から順に時代を進んでいきます。啓蒙主義思想が栄えたフランスが中心ですが、イギリスとアメリカの事例も多く紹介されています。全編にわたって、性的だったり排泄に関連したり、有名人の意外な側面だったりと、具体的な興味深いエピソードがこれでもかと詰め込まれており、飽きさせません。原書が二〇一七年に出版された際にもその点が注目されました。

……この本は、長い十八世紀の感覚の歴史をめぐる、生き生きとして幸福な、時にウィットに富んだドタバタ劇であり、「見ることが常に信じることではない」ことを気づかせる愉快な例を豊富に見せてくれる。

──マーク・スミス《ウォール・ストリート・ジャーナル》ブックシェルフ

本書が初の単著となる著者キャロリン・パーネルは、テキサス生まれ、農場に育ちました。パリなどでの研究滞在を経て、シカゴ大学で博士号を取っています。専門は、フランス史、十八世紀、感覚の歴史など。現在は、イリノイ工科大学で教えつつ、ウォール・ストリート・ジャーナル、フォーシーズンズマガジン、インテリア専門ウェブサイトなど多彩なメディアに寄稿しています。また、十九世紀の色彩をめぐる変化を扱う本を準備中とのことです。「変わったものが大好き」な著者のこと、次作もカラフルなエピソードあふれる楽しい本になることでしょう。

本書を読むと、「啓蒙主義時代における感覚の歴史」を書くに至った前提として、アメリカにおいて、啓蒙主義、「精神」と「肉体」の二項対立、「見ることは信じること」という信念のもつ重みがいかほどであるのか、にも興味を引かれます。現代に生きるアメリカ人向けに書かれた本ですが、アメリカ人が前提としている考え方が透けて見えるようで、それもまた外国の本を読む楽しみであると感じました。さらに、有名人の裏話、オースティンの『分別と多感』の「多感」とはそもそも何だったのか?など、本書が扱う時代に書かれた文学の背景を知る本としても、楽しく読めるのではないかと思います。

[書き手]藤井千絵(通訳・翻訳家)
見ることは信じることではない:啓蒙主義の驚くべき感覚世界 / キャロリン・パーネル
見ることは信じることではない:啓蒙主義の驚くべき感覚世界
  • 著者:キャロリン・パーネル
  • 翻訳:藤井 千絵
  • 出版社:白水社
  • 装丁:単行本(286ページ)
  • 発売日:2019-04-24
  • ISBN:4560096899
内容紹介:
天才をつくる食事、盲学校の設立、おならを芳香にする薬……啓蒙主義の時代、人々は身体感覚を通じて世界をどう捉えなおしたか。

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