書評

『「東洋の魔女」論』(イースト・プレス)

  • 2017/09/20
「東洋の魔女」論  / 新雅史
「東洋の魔女」論
  • 著者:新雅史
  • 出版社:イースト・プレス
  • 装丁:新書(216ページ)
  • 発売日:2013-07-10
  • ISBN:4781650090
内容紹介:
一九六四年一〇月二三日、視聴率六六・八%を稼ぎ出すほどの国民が見守る中、金メダルを獲得した「東洋の魔女」。彼女たちが在籍した繊維工場は、当時多くの女性が従事した日本の基幹産業であり、戦前には『女工哀史』に象徴されるような非惨な労働環境も抱えていたが、そこでバレーボールが行われたことの意味するものは何か。そして「東洋の魔女」が「主婦」を渇望したことの意味するものは何か。「レクリエーション」という思想からバレーボールが発明され、日本の繊維工場から「東洋の魔女」が誕生したことの歴史性を考察する。

紡績業通して語る日本戦後論

本書の途中でページをめくることができなくなった。「女工に負けたら恥じよ」と当時強豪の女子校チームに野次(やじ)られ、「女工」という烙印(らくいん)を押されたことで、しどろもどろになった日紡チームは負けてしまう。ここで、涙腺が緩んでしまったのである。

本書は書名から連想されるスポ根論ではない。企業を通してみた日本の近代経営論であり、第2次大戦に出征し、命からがら帰国した将兵のその後の「大きな物語」である。

日本のエスタブリッシュ企業である紡績会社のバレーボールチームは、戦後、義務教育修了年限に達した大量の女子を「いかに就職させるかという問題」を解決する手段として生まれた。

1950年代まで、女子社員の勤続年数は短かった。当時、女子中卒者の多くは20歳前後で離職し、その後「音信不通」になっていった。

そうした社会状況を改善するため当時の繊維業界は官民あげて「絶え間ない努力」を行った。「工場の近代性・安全性を喧伝(けんでん)し(略)面倒見のよい職場であることをアピールしようと」、米国でレクリエーションとして考案されたバレーボールを採用した。

60年代、当時のエリートである高卒女子の日紡貝塚チームを率いた大松博文監督は、他の一般労働者と同等の工場勤務をこなす彼女たちに睡眠時間を削っての猛練習を課し、ステートアマであるソ連の女子バレーに挑んだ。

大松は彼女たちの望んだ「結婚」、すなわち女性性を取り戻すためにいったんそれを否定して「鬼」と化し、金メダルを取ることで「魔女」から「解放」したのだった。

翻って、グローバル時代の21世紀には「泳げない者は沈めばいい」を標榜(ひょうぼう)するグローバル企業のトップが名経営者としてもてはやされる。この彼我の差は時代の差に帰すことはできないというのが本書を読んだ実感だ。今の経営者にぜひ一読を薦めたい。
「東洋の魔女」論  / 新雅史
「東洋の魔女」論
  • 著者:新雅史
  • 出版社:イースト・プレス
  • 装丁:新書(216ページ)
  • 発売日:2013-07-10
  • ISBN:4781650090
内容紹介:
一九六四年一〇月二三日、視聴率六六・八%を稼ぎ出すほどの国民が見守る中、金メダルを獲得した「東洋の魔女」。彼女たちが在籍した繊維工場は、当時多くの女性が従事した日本の基幹産業であり、戦前には『女工哀史』に象徴されるような非惨な労働環境も抱えていたが、そこでバレーボールが行われたことの意味するものは何か。そして「東洋の魔女」が「主婦」を渇望したことの意味するものは何か。「レクリエーション」という思想からバレーボールが発明され、日本の繊維工場から「東洋の魔女」が誕生したことの歴史性を考察する。

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初出メディア

朝日新聞

朝日新聞 2013年9月22日

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