書評
『ヤンキーと地元』(筑摩書房)
頭と体で得た圧倒的「寄り添い」
沖縄を見捨てる為政者が「沖縄に寄り添いながら」との言葉を放つ矛盾が繰り返されているが、そもそも、ある土地に「寄り添う」という意思表示だけでは、実像など掴めるはずがない。簡単にわかってくれるな、という声は、素早くわかった気になりたいメディアには浮上しにくい。「仕事ないし、沖縄嫌い、人も嫌い」と吐き捨てるヤンキーの声から始まる本書は、一〇年以上も沖縄の暴走族やヤンキーに文字通り「寄り添い」ながら、やがて、サラ金の回収業、性風俗店の経営、型枠解体業などの仕事に就いていく彼らの声を拾い続けた社会学者による、初の単著だ。
まずは広島で暴走族のパシリとなった著者。少し高めの鮭と昆布のおにぎりを買っていけば、「なんでツナでないのか」と叱責される。この理不尽は沖縄でも同様。しーじゃ(先輩)だから、との理由で全てが正しくなる社会では、時に、うっとぅ(後輩)への暴力すら肯定される。支配と搾取にまみれた彼らだが、人との関係性を雑に構築せずに、わかり合える人ととことんわかり合おうとする。
「(いつか)殺されるぞ、刺されるぞ、おまえ」「でもそうでしょ、最終的に決めるのは自分でしょ」……直情的に生きている若者たちとの対話は、あまりにも無配慮に思える。だが、読み進めていくうちに、日々生き抜くために配慮を繰り返す社会にただただ佇んでいる、こちらの目が濁っている可能性に気づき始める。好き、嫌い、ヤリたい、殴りたい、笑いたい、逃げたい。剥き出しの感情が招いた人生の転機には、それぞれに図太い理由がある。
後悔も諦念も宿怨もごちゃ混ぜになった若者たちの声を引っ張り上げる著者が、「人が生活し働くうえで土台となる文化を理解すること、その理解をもとに想像をめぐらすこと」という姿勢を自身の頭と体で獲得するまでの「寄り添い」に圧倒される。人間を見捨てない筆致が発熱している。
【増補文庫版】
朝日新聞 2019年4月27日
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