書評

『ヤンキーと地元』(筑摩書房)

  • 2019/06/22
ヤンキーと地元 / 打越 正行
ヤンキーと地元
  • 著者:打越 正行
  • 出版社:筑摩書房
  • 装丁:単行本(304ページ)
  • 発売日:2019-03-23
  • ISBN-10:4480864652
  • ISBN-13:978-4480864659
内容紹介:
沖縄のヤンキーたちはどのような現実を生きているのか。暴走族の若者とのつき合いから始まった、一〇年以上にわたる調査の記録。

頭と体で得た圧倒的「寄り添い」

沖縄を見捨てる為政者が「沖縄に寄り添いながら」との言葉を放つ矛盾が繰り返されているが、そもそも、ある土地に「寄り添う」という意思表示だけでは、実像など掴めるはずがない。簡単にわかってくれるな、という声は、素早くわかった気になりたいメディアには浮上しにくい。

「仕事ないし、沖縄嫌い、人も嫌い」と吐き捨てるヤンキーの声から始まる本書は、一〇年以上も沖縄の暴走族やヤンキーに文字通り「寄り添い」ながら、やがて、サラ金の回収業、性風俗店の経営、型枠解体業などの仕事に就いていく彼らの声を拾い続けた社会学者による、初の単著だ。

まずは広島で暴走族のパシリとなった著者。少し高めの鮭と昆布のおにぎりを買っていけば、「なんでツナでないのか」と叱責される。この理不尽は沖縄でも同様。しーじゃ(先輩)だから、との理由で全てが正しくなる社会では、時に、うっとぅ(後輩)への暴力すら肯定される。支配と搾取にまみれた彼らだが、人との関係性を雑に構築せずに、わかり合える人ととことんわかり合おうとする。

「(いつか)殺されるぞ、刺されるぞ、おまえ」「でもそうでしょ、最終的に決めるのは自分でしょ」……直情的に生きている若者たちとの対話は、あまりにも無配慮に思える。だが、読み進めていくうちに、日々生き抜くために配慮を繰り返す社会にただただ佇んでいる、こちらの目が濁っている可能性に気づき始める。好き、嫌い、ヤリたい、殴りたい、笑いたい、逃げたい。剥き出しの感情が招いた人生の転機には、それぞれに図太い理由がある。

後悔も諦念も宿怨もごちゃ混ぜになった若者たちの声を引っ張り上げる著者が、「人が生活し働くうえで土台となる文化を理解すること、その理解をもとに想像をめぐらすこと」という姿勢を自身の頭と体で獲得するまでの「寄り添い」に圧倒される。人間を見捨てない筆致が発熱している。

【増補文庫版】
ヤンキーと地元 ――解体屋、風俗経営者、ヤミ業者になった沖縄の若者たち / 打越 正行
ヤンキーと地元 ――解体屋、風俗経営者、ヤミ業者になった沖縄の若者たち
  • 著者:打越 正行
  • 出版社:筑摩書房
  • 装丁:文庫(368ページ)
  • 発売日:2024-11-09
  • ISBN-10:4480439846
  • ISBN-13:978-4480439840
内容紹介:
暴走族のパシリから始まった沖縄のフィールドワーク、10年超の記録。第6回沖縄書店大賞沖縄部門大賞受賞、各紙書評で絶賛の話題書、待望の増補文庫化!解説 岸政彦生まれ故郷が嫌いだと吐… もっと読む
暴走族のパシリから始まった沖縄のフィールドワーク、10年超の記録。
第6回沖縄書店大賞沖縄部門大賞受賞、各紙書評で絶賛の話題書、待望の増補文庫化!

解説 岸政彦

生まれ故郷が嫌いだと吐き捨てるように言った、一人の若者。その出会いを原点に、沖縄の若者たちをめぐる調査は始まった。暴走族のパシリとなり、建設現場で一緒に働き、キャバクラに行く。建設業や性風俗業、ヤミ仕事で働く若者たちの話を聞き、ときに聞いてもらう。彼らとつき合う10年超の調査から、苛酷な社会の姿が見えてくる──。補論を付した、増補文庫版。

「沖縄で出会ったヤンキーの拓哉は、「仕事ないし、沖縄嫌い、人も嫌い」と、吐き捨てるように言った。沖縄の若者が生まれ故郷を嫌いだとはっきり言うのを初めて聞いたので、私は驚いた。彼が嫌いな沖縄とはなんなのか。そもそも、彼はどんな仕事をし、どんな毎日を過ごしているのか。そうしたことを理解したいと私は思った。10年以上にわたる沖縄での調査の原点は、そこにあった。」(「はじめに」より)

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ヤンキーと地元 / 打越 正行
ヤンキーと地元
  • 著者:打越 正行
  • 出版社:筑摩書房
  • 装丁:単行本(304ページ)
  • 発売日:2019-03-23
  • ISBN-10:4480864652
  • ISBN-13:978-4480864659
内容紹介:
沖縄のヤンキーたちはどのような現実を生きているのか。暴走族の若者とのつき合いから始まった、一〇年以上にわたる調査の記録。

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初出メディア

朝日新聞

朝日新聞 2019年4月27日

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