退屈な読書
- 著者:高橋 源一郎
- 出版社:朝日新聞社
- 装丁:単行本(253ページ)
- 発売日:1999-03-00
- ISBN-13:978-4022573759
- 内容紹介:
- 死んでもいい、本のためなら…。すべての本好きに贈る世界でいちばん過激な読書録。
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格子の向うで、蒼白い顔にかすかにあばたのあとのある子供は、利口そうな眼にいっぱいに恐怖のひかりをたたえていった。
『鬼ごっこみたいにめかくしされたひとが……雨のなかを。そのまえに、ボロボロのこじきが、たくさんあるいていったよ。……』
そうであったか、盲人の大名小路はここであったか、と千羽兵四郎は茫然として、銀灰色の蒸気の中にけむるがらんどうの遊女町を見わたした。
『こら、女の子、ここはどこだか知ってるか』
『おうもん』
『なんだい、それ……おまえなにしにここへきたんだ』
『おいやん』
『おまえ、おいらんになりにきたのか。ばか、なんて名だい』
『あたい、ひぐち、なちゅ』(「幻談大名小路」)
――萩から密使の秘命をおびて上京して来た玉木真人は、わざと訪問しなかったが、陸軍省に伝令使として勤務する二十八歳の乃木希典は、彼の兄であった。真人は、よそに養子にいったので姓がちがったのである。……。
(乃木の乗った)馬車にはもう一人、少年が乗っていた。陸軍省のある書類を折返し至急届けてもらいたいと西周がいい、ちょうどその日、西家を訪れていた――以前西家に書生をしていたこともあるという――その少年が受取りの用を命じられて、同乗させてもらっていたのだ。
『僕は、あの巡査を知っています』
と、その少年――森林太郎がいい出した。