書評

『安楽死を遂げた日本人』(小学館)

  • 2019/07/27
安楽死を遂げた日本人 / 宮下 洋一
安楽死を遂げた日本人
  • 著者:宮下 洋一
  • 出版社:小学館
  • 装丁:単行本(349ページ)
  • 発売日:2019-06-05
  • ISBN-10:4093897824
  • ISBN-13:978-4093897822
内容紹介:
NHKスペシャルで大反響! ある日、筆者に一通のメールが届いた。〈寝たきりになる前に自分の人生を閉じることを願います〉送り主は、神経の難病を患う女性だった。全身の自由を奪われ、… もっと読む
NHKスペシャルで大反響!

ある日、筆者に一通のメールが届いた。
〈寝たきりになる前に自分の人生を閉じることを願います〉

送り主は、神経の難病を患う女性だった。全身の自由を奪われ、寝たきりになる前に死を遂げたいと切望する。彼女は、筆者が前作『安楽死を遂げた日本人』で取材したスイスの安楽死団体への入会を望んでいた。

実際に彼女に面会すると、こう言われた。
「死にたくても死ねない私にとって、安楽死は“お守り”のようなものです。安楽死は私に残された最後の希望の光です」

彼女は家族から愛されていた。病床にあっても読書やブログ執筆をしながら、充実した一日を過ごしていた。その姿を見聞きし、筆者は思い悩む。
〈あの笑顔とユーモア、そして知性があれば、絶望から抜け出せるのではないか〉

日本で安楽死は認められていない。日本人がそれを実現するには、スイスに向かうしかない。それにはお金も時間もかかる。四肢の自由もきかない。ハードルはあまりに高かった。しかし、彼女の強い思いは、海を越え、人々を動かしていった――。

患者、家族、そして筆者の葛藤までをありのままに描き、日本人の死生観を揺さぶる渾身ドキュメント。


【編集担当からのおすすめ情報】
NHKスペシャル「彼女は安楽死を選んだ」(6月2日放送)も、この女性を特集しました。同番組には、筆者が取材コーディネーターとして関わっています。番組に興味を抱いた方は、その舞台裏も描いた本書をお読みください。

目の前で行われた死の意味を問う

安楽死が認められた国で主体的に死を選ぶ人々を訪ね歩いた『安楽死を遂げるまで』の続編は、その本を読んだ多系統萎縮症を罹患した日本人女性から、「安楽死をスイスにて行うつもりです」とのメールを受け取るところから動き出す。

スイスにある自殺幇助団体のもとで旅立ちを迎えるまでの、当人や家族の葛藤を中心に描くが、その葛藤は著者自身にも伝播する。「死期を早める行為を実現させたのは、私かもしれない」。女性は、あくまでも「個人的な死」であり、同じ難病を持つ人々の希望を奪わないでほしいと告げる。

安楽死に向かう人の感情をただ受け止めることはせず、自殺幇助の曖昧さに悩み、それでも目の前で行われた死の意味を問う。生き続けることの恐怖を煽る風土に加担する本ではない。答えの出ない問い、他者が答えを出してはいけない問いが読後の体に残る。「絶対と呼べる正当性を見出せられない」という、困惑したままの帰着が重い。
安楽死を遂げた日本人 / 宮下 洋一
安楽死を遂げた日本人
  • 著者:宮下 洋一
  • 出版社:小学館
  • 装丁:単行本(349ページ)
  • 発売日:2019-06-05
  • ISBN-10:4093897824
  • ISBN-13:978-4093897822
内容紹介:
NHKスペシャルで大反響! ある日、筆者に一通のメールが届いた。〈寝たきりになる前に自分の人生を閉じることを願います〉送り主は、神経の難病を患う女性だった。全身の自由を奪われ、… もっと読む
NHKスペシャルで大反響!

ある日、筆者に一通のメールが届いた。
〈寝たきりになる前に自分の人生を閉じることを願います〉

送り主は、神経の難病を患う女性だった。全身の自由を奪われ、寝たきりになる前に死を遂げたいと切望する。彼女は、筆者が前作『安楽死を遂げた日本人』で取材したスイスの安楽死団体への入会を望んでいた。

実際に彼女に面会すると、こう言われた。
「死にたくても死ねない私にとって、安楽死は“お守り”のようなものです。安楽死は私に残された最後の希望の光です」

彼女は家族から愛されていた。病床にあっても読書やブログ執筆をしながら、充実した一日を過ごしていた。その姿を見聞きし、筆者は思い悩む。
〈あの笑顔とユーモア、そして知性があれば、絶望から抜け出せるのではないか〉

日本で安楽死は認められていない。日本人がそれを実現するには、スイスに向かうしかない。それにはお金も時間もかかる。四肢の自由もきかない。ハードルはあまりに高かった。しかし、彼女の強い思いは、海を越え、人々を動かしていった――。

患者、家族、そして筆者の葛藤までをありのままに描き、日本人の死生観を揺さぶる渾身ドキュメント。


【編集担当からのおすすめ情報】
NHKスペシャル「彼女は安楽死を選んだ」(6月2日放送)も、この女性を特集しました。同番組には、筆者が取材コーディネーターとして関わっています。番組に興味を抱いた方は、その舞台裏も描いた本書をお読みください。

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初出メディア

朝日新聞

朝日新聞 2019年6月22日

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