退屈な読書
- 著者:高橋 源一郎
- 出版社:朝日新聞社
- 装丁:単行本(253ページ)
- 発売日:1999-03-00
- ISBN-13:978-4022573759
- 内容紹介:
- 死んでもいい、本のためなら…。すべての本好きに贈る世界でいちばん過激な読書録。
その他の書店
ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、
書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。
ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。
外の世界から完全に遮断されながらも、陽のよく当たる落ち着いた空間だった。辺りは植物の密かな呼吸音が聞こえてきそうなくらい静かだった。
純粋に好きだった。ホブソンの苺アイスクリームにココナッツの粉をかけて食べるのが純粋に好きな人がいるのと同じように、読書が純粋に好きだった。
しかし、今は言葉がない方がむしろ落ち着いた。その沈黙の中には、――言葉ではとうてい説明できない――確実な語り合いが含まれているような気がした。そして僕らはその無言の語り合いに、いつまでも耳を傾けていた。
「ねえ、私、男の人の髭って触ったことがないの。ちょっと触ってみていいかしら?」と彼女は悪戯っぽい声で聞いた。
「どうぞ。今週は髭に触る特別無料体験コースを実施しておりますので、遠慮なく好きなだけ触ってみて下さい」と、バーゲンセールを宣伝するスーパー・マーケットの店内放送を真似して言った。
「そうだね、〈世界の平和に乾杯〉というのは、平凡だけど、とりあえず世界の平和に乾杯しよう」僕は自分のジョッキを京子のジョッキに軽くぶつけた。
「世界の平和に乾杯!」