書評
『セミ』(河出書房新社)
切り捨てられる時に私たちは何を思うのか
「この本を書評します」と編集者に伝えたものの、この絵本は書評しないほうがいい。何の情報も入れず、30ページほどの絵本を1ページずつめくるほうがいい。説明すれば、その説明に多少は引っ張られる。引っ張られたくない人は、以降は読まずに、本を手にしてください。17年間、人間と一緒に働いているセミ。昇進はなし、会社のトイレすら使わせてくれない。同僚は自分のことを踏んづけてバカにする。家賃なんて払えないから、会社の壁の隙間(すきま)で暮らしている。定年を迎えたセミ、送別会なんてない。ボスから机を拭いていくように指示されたセミは、どこへ向かうのか……。
昼の時間帯にオフィス街を歩くと、大きな笑い声があちこちから聞こえてくる。その笑い声が聞こえるほうを向くと、無表情なのに、確かにその人から笑い声が聞こえることがある。恐ろしい。そして、大丈夫だろうか、と思う。
満員電車が大きな駅に着き、多くの人が、列を乱さぬように改札を出ていく。もしその先が崖だったとしても、みんな、従順に崖から落ちていくのではないか、なんてことを思う。
集団の中で、人間が人間らしさを保つのは簡単ではない。組織や社会から、こういう人間であれと要請された人間を演じているうちに、いつしか、自分って前からこういう人間だったと信じてしまう。管理してくれ、と自ら型にはまっていく。
でも、「型」って、特定の人に用意されるものではないから、形が変わる。はまらなくなったら「もうオマエなんか要らない」と切り捨てられる。その一方で、「自分の殻を破って自由になれ」なんて言う人もいる。オマエに何がわかるんだよ、と思ってきた。そう思っていてイイんだと、この絵本が教えてくれた。
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