書評
『せかいのひとびと』(評論社)
違うっていいね「せかいのひとびと」
国際化の時代……なんていうと、堅苦しいけれど、息子をとりまく環境を見ていると、ごく自然にそれが感じられる(ALL REVIEWS事務局注:本書評執筆時期は2008年)。二歳のころ、友だちにジョシアくんという男の子がいた。彼がときどき英語を話すのを聞いたためか、息子はものすごく英語に興味を持った。「ジョシアくんはね、からあげのこと、チェッキンって言うんだよ。ポテトはポレイローだよ」と観察も怠(おこた)りない。
「英語でいうと、なあに?」というのが、そのころの口ぐせで、ある日、「ねえ、英語でいうと、抱っこはなあに?」と聞かれた。
抱っこ? 正直言って、お母さんにもわからない。そんなの、ジョシアくんに聞いてよ……と困っていると、「もしかして、どぅわっこ、じゃない?」と、口をとがらせて、英語っぽく発音してみせた。たぶん違うと思うけど、なんだか感じは、よく出ている。
幼稚園に行くようになると、両親が東南アジアの人や、アフリカの人などもいて、子どもたちの肌の色もさまざまだ。そういえば息子のクレヨン、昔は「はだいろ」と表示されていた色が「うすだいだいいろ」になっている。日本人の肌の色をもって「はだいろ」とするのは、確かに不自然なことだ。
先日、本屋さんのショウウィンドウを見ていて「あの本がいい」と息子が指をさした。
『せかいのひとびと』。表紙には、さまざまな服装をした、さまざまな国の人々が、びっしりと描かれている。今「せかいのこっき」を眺めるのが趣味(?)なので、「せかいの」という言葉に惹かれたのかもしれない。
世界中の人々の、顔や髪や肌の違いにはじまって、おしゃれや趣味の違いが描かれている。いろんな国の、遊びや食べ物や家の様子も紹介される。仕事、言葉、性格、宗教、貧富や身分の差まで……。
ありとあらゆる面からの「違い」がここにはある。服装などの客観的な要素も、感情などの主観的な要素も、たぶん意図的に並列されている。その一つ一つを図鑑的にたどっていくだけでも、なかなか楽しい。
私が「わ~、ほんとだ、いろいろあるね」と大ざっぱに片づけて、次のページに進もうとすると「まだ、ダメ!」と言って、息子は一つ一つの絵に、熱心に見入っていた。
違っているけれど、同じ地球で、同じ太陽に照らされて、そして最後は誰もが死ぬ、というメッセージも、さりげなくはさまれている。これも大事なことだが、それで終わらないのが、この絵本のいいところだろう。違うけれど、結局死ぬんだから同じ、ではつまらない。
最後の連続見開きページが素晴らしい。違うっていいね、ということが、二枚の大きな絵を通して、理屈抜きに伝わってくる。
【この書評が収録されている書籍】
朝日新聞 2008年6月25日
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