書評
『マデックの罠』(評論社)
生き残りかけた砂漠の攻防
本書は20年ほど前、1度翻訳されたことのある旧作だが、このほど改訳新版として復刊された(ALL REVIEWS事務局注:本書評執筆時期は2010年)。1973年度の、MWA(アメリカ探偵作家クラブ)のエドガー・アラン・ポー賞を受賞している。もともとは、少年向けに書かれた小説だから、活字の大きさも訳文も読みやすい。とはいえ、おとなが読んでも十分に楽しめる冒険小説の佳作である。昨今のこってりした翻訳小説に食傷している向きには、一服の清涼剤になるだろう。
狩猟ガイドの若者ベンが、ある事情からハンターのマデックに狙われ、生き残りをかけて砂漠の中をただ一人、逃げ回るはめになる。物語が進行するにつれ、あの手この手と繰り出される攻防の趣向は、サバイバル小説の本道を行くものだ。ベンが持てる知力と体力を振り絞り、必死に生き延びようとする姿は感動的ですらある。一件落着したと思われたあとに、もう一つ罠が仕掛けられているなど、ストーリーテリングのうまさは抜群で、最後まで飽きさせない。
こうした本を、子供のころに読ませておけば、きっと本好きのおとなに育つに違いない。
朝日新聞 2010年5月16日
朝日新聞デジタルは朝日新聞のニュースサイトです。政治、経済、社会、国際、スポーツ、カルチャー、サイエンスなどの速報ニュースに加え、教育、医療、環境、ファッション、車などの話題や写真も。2012年にアサヒ・コムからブランド名を変更しました。
ALL REVIEWSをフォローする





































